そして翌朝も、変わっていなかった。あまりにでかくなった顔で、相変わらずおちょぼ口。可笑しいと思う気持ちを超越してしまったのか、単に見慣れたのか、見飽きたのか。笑えない。悲しいけど泣くほどでもない。すごーく切ない。しみじみと鏡を見て、内心でも爆笑しなくなり、心の中も静かになった。
 朝の外来に行って、口角が痛いことを伝え、食べ物が歯茎とほっぺたの間にはさまっても怖くて何もできないと訴えた。
 改めて鏡を見ると、口角がボロボロで。ほっぺたに、手術の際についた血がなかなか取れないなあと思っていたが、それは口の中の血ではなく、手術の執刀の際に傷ついたらしい。自分の顔に、シミやシワはたくさんあって、消えないなあと諦め半分、受け入れないわけにいかなかったが、傷はどうも受け入れられない。鏡をしばらく見たくないと思った。
 病室では、手術前より「放っておかれている」感覚も減り、少しホッとした。でも、連携ができていない、管理できていないという印象はずっと続いた。イレギュラーなことが多いので、不安になることもあったし、それに関しての説明もなかった。又、最後まで一人一人の言うことが違った。
 左手の点滴を失敗し、右手に点滴をしていた私だったが、点滴する時に、思わず声が出るほど痛みが走るようになり、看護師さんが点滴の場所を変えた方が良いと判断した。痛みも段々上に上がっていたので、それも怖かった。「そのうち段々痛みがこっちの方に上がってきて」と身振り手振りで肩や心臓に痛みが来るんじゃ?と訴えると、看護師さんに失笑された。が。血管が細いらしく、なかなか見つからないらしい。他の人も来て試したがうまくいかず、さらに次の人がやってきた。血管がまっすぐ走っていないので、きっかけは掴めても、その先に行かないらしい。最後に来た人は「若手指導」とネームプレートに書いてあった。「こんなにチクチクされちゃって。ごめんなさい!」と初めて心からの言葉をいただいた。その方も苦労はしていたものの一発で見つけてくれた。こんな血管で申し訳ない気持ちになったが、結局全部で7回くらいブスブスと注射を打たれ、あちこち内出血した。ちなみに、掛かり付けの内科で、軟弱な私は時々点滴を打つことがあるのだが、ほぼ一発で見つけてもらえる。そこは医師だけでなく、看護師さんもとても感じの良い方も多いのだが、そんなに苦労されたことがない。あの差はなんなのだ。
 水曜には、シャワーの許可が下り、汚いシャワー室を思うとあまり喜べなかったが、体を洗うと気が晴れるだろうと思い、嬉しくなって下の売店でボディソープなどを買った。外来以外をウロウロするのは数日振りだが、ほとんどずっと横たわっていたので、売店に行って階段を使ったりするのは、ヘトヘトになった。左腕を濡らさないように、ナースステーションに行って、テープを貼ってもらった。が、これもまた下手で、ここから本当に入らないのだろうかとテープがヨレヨレ。でも頭も洗えないのでまあ良いかと思い、そーっと体を洗った。それでも気分が晴れやかになって嬉しかった。顔は、心もち「ぱんぱん」からは、解放された。「宍戸錠超えだ〜!」と笑っていた頃くらいにやっと戻り、マシになるものなんだと実感してきた。