日曜から入院、月曜手術であったが、木曜から個室に移る予定があった。
 個室は高いので、本当はずっと大部屋でも良かった。
 しかし、木曜や土曜に夫の仕事が忙しくなる。木曜は帰宅が夜遅めなので、息子が家で一人で過ごす時間が増えてしまう。兄弟姉妹もいないし親戚もいない。一番頼りにしていた友人も、家庭のゴタゴタで頼るわけにもいかない。近所で親しくしている人も、今いない。はてさてと困り、息子がゆっくり時間を過ごせる個室を取ることにした。そうすれば、木曜の息子の帰りが遅くなっても個室に長い時間居られるし、土曜もほとんど一人で過ごすことなく、病室でのんびり過ごすことができる。
 母が、助けをかって出てくれて、宝塚の実家からはるばる協力に来てくれることになったが、今年に入ってからの祖母は、唐突に怪我をしたり入院したりするので、当日母が出発するまで私は安心できなかった。やはり念のために、二泊か三泊だけなら個室を取ろうと思い、そうすることにした。
 木曜の朝から、何度も見慣れない看護師さんが「今日ですね」「午前中のうちにと思っています」「○時頃になると思います」「準備していて下さいね」などと報告に来てくれていた。そして移る時間に、私は向かいの上品なオナラおばあさまに簡単に挨拶をした。「部屋を移りますけど、もう数日いるので、外来で会うと思います」と言うと「アラ、じゃあもうすぐで退院?」と聞かれたので「多分、土曜か日曜には」と言うと、「良いわね、皆どんどん退院していっちゃう。」とおっしゃる。「まだかかりそうですか?」と聞くと「うーん、食べれないのよね」とのこと。結構座って本を読んでいたので、お元気そうに見られたのだが、食事ができないらしい。私も体が弱い方だが、年齢が若い頃に処置した方が良いと歯医者さんに言われたのをここで納得した。こういうところに差が出てしまうのかと。ああ……と私は絶句してしまい、なんと返して良いのかわからなかった。
 そして部屋移動。
 手術の時に案内してくれた看護師さんに付いて行ったら「今までのところは、この辺りでも一番古い建物で狭くてたくさんいたけど、これから行く所は新しくてキレイですよ〜」と何故かハシャいでいた。彼女の目の表情には憧れのようなものがあり、おそらく配属が決まる時に、新しい所で個室の方が、看護師たちにとっても羨ましいものなのだろうなあと思った。なんとなく、大学生の頃に体験したキャンプのリーダーの配属が割り当てられる時のことを思い出した。決まった時の、静かな落胆や羨望、戸惑いや喜び。
 部屋に入ると、ホテルのようであった。ホテルのシングルルームより少し広いくらいである。さすがに浴槽はなくてもシャワーとトイレも付いている。冷蔵庫も小さなクローゼットもあった。何より嬉しかったのは、枕元のランプ。そしてカードの時間を気にしなくて良いテレビ! 大部屋で少々貧乏性になっていた私は、荷物を置くとシーンとした部屋の中、ベッドの上でひたすらメールを打った。夫に「すごい部屋」とハシャいだ。個室の中では一番安い部屋なのだが。出入りする看護師さんが「テレビつけたら良いんですよ」と笑っていた。