米津玄師という名前を初めて見たのは、平日の、朝の情報番組でだった。
 見た感じは、いかにも今どきのミュージシャンで、「最近の若者の心に、歌詞が響く」ということで人気らしい。なるほど、目がまったく見えないくらい覆い尽くした前髪は、昔のサングラスの役割を果たしているのね。とか言いながら息子の顔を偶然見たら、食い入るように見ている。
 「? あれっ? 知ってるの?」
 と聞くと「知ってる。」と言う。
 へえ。やっぱり今どきの人なんだーと思い、
 「何て読むの、この人の名前」
 と聞くと「よねづさん」と‘さん’付けである。なにそのリスペクトした感じ。もしかして本当に尊敬の念を持って見ているのだろうか。
 「下の名前は?」
 と聞くと「けんしさん」とまた‘さん’付けである。
 ああ、大切に思っているんだ。自分の中で‘さん’を付けないと、と思うくらいにスゴイ人だと思っているんだ。ちょっと嬉しくなった。そういう人が息子の心の中にいるなんて。そして「ダンスも上手いし、絵もすごく上手なんだ」と言う。あらあら結構知っているんだ。私はそんな人、聞いたこともなかった。
 「アルバムとか欲しくないの?」
 と聞くと「良いよ別に。ネットで聴けるから」とまた今どきな返事。
 そうかあ。そうなのかああ。でも私が聴きたくなってきたぞ。耳にしたことのある曲Dふぁし、有名なのだろう。歌も上手ではないか。きっと、こんなに若者の心をとらえる人の音楽は面白いはずである。しかも息子が自分で見つけてきて、初めて気に入っている音楽がどんなものか、聴いてみたい。
 そこでクリスマスプレゼントにアルバムを買うことにした。「イヤがらないかな」と夫に相談して。夫は「子供が聴かなくても自分が聴く、くらいの気持ちなら良いと思う」と言うので、ちょっとだけ緊張しながら息子にプレゼントした。
 すると、意外にも「おお! 嬉しい! ありがとう!」と、喜んでくれた。
 そして車の中で聴いてみると、これが思った以上に面白かった。
 若い人なのだが、声が思いの外、大人っぽい。落ち着いた声と歌い方。サウンドも、どうも私たちの世代が20歳前後に聴いたような雰囲気。1990年前後ですね。でも今どきな疾走感が少しあり、言葉数の多さも、ちょっとラップが入りそうで入らないような感じも、今どき。でもロックで言葉のメッセージも強いのにメロディがキレイでオリエンタルな雰囲気。サビがわかりやすい。久保田利伸とか岡村靖幸とかを連想させるような、ちょっと懐かしいような、それでいて今どきな感じが、なかなかのセンスを感じるのだ。
 幼い頃から色々聴かせてきた結果が、このような音楽の好みになっていることが感慨深い。これから少しずつ変わるだろうけど、一発目がこれか。なかなか良いぞ!