息子が家庭環境のせいで、泣き叫んでいたのか。厳しさが足りなかったのか。
 どうしても私にはそうは思えない。私は厳しくしなくちゃというところでは、他の家庭よりむしろ厳しかったと思う。だけど常に愛情を口にし、息子も夫や私に目いっぱいの愛情をぶつけてきた。息子は、大号泣でストレスを発散する以外に、どもりや爪かみがあって、私はそれ以上のことを息子に要求はできなかった。
 ただ人の気持ちを傷つけることや相手の気持ちを想像すること、自分の気持ちや意見を言葉で表現できるようにすることも、相当気を付けて伝えてきた。他に、身の危険を感じた時や他人を軽く見るような言い方をした時や、外側の特徴について悪く言った時、そしてその要求は今はのめないという時は譲らなかった。例えば公園から帰る時に「もうすぐだよ」と言い始め、何回か言ってその都度聞いているか確認したら、泣こうが喚こうが連れて帰った。そういったやり取りは、何回かであきらめると思いきや、息子は懲りずに毎回大号泣した。周りは「そこまでして帰らなくても」と思ったかもしれない。だけど、こちらにだって用事はあるし、何度も声掛けをしたから、「もー」とか言いながらズルズルすることはいやだった。色々なことがこういった調子で、息子は毎回泣いた。
 これがストレスだったのか? でも甘やかしはどうしてもいやだった。毎日のように大好きと伝えて抱きしめ、息子の抱っこにもしっかり応え、できる限り遊び相手にもなった。あらゆることに好奇心を持つ息子を、ギリギリまで付き合って待った。息子が愛おしくて仕方なかった。だけど、こちらが聞いてもらうところは、ほとんど妥協しなかった。
 息子の激しいからみ方とかんしゃくと大号泣とに、これ以上細かいことをしつけるには、私の神経がすり減り過ぎる。毎日、私は充分すり減っていた。ギリギリの精神状態だったと思う。周りの子供は我慢した顔をしてでも親のことを聞いたり、穏やかに親の言う通りにしたりする子がほとんど。かんしゃく起こして言うこと聞かないことがあっても、息子ほどその頻度が多くなかった。その様子を見ているだけで、私は毎日追い詰められ、焦って不安になっていた。何故我が子だけ、同じようなことを同じような言い方をしているだけで、こんなに激しく泣いて抵抗するのか。そんなに先生がおっしゃるのなら、上手に誘導してみてくださいよ。うまくいかないですから。そして、今息子を抑えつけて言うことを聞かせたら、どれほどのストレスが、いつ爆発するのだろう。そのエネルギーが尋常ではないことは、毎日の大号泣が物語っている。
 それがスッとおさまったのが、5年生の頃。息子は落ち着いた少年になっていった。自分の気持ちをとても豊かに言葉にし、客観視できるようになっていった。「何かがいやだ!と思ってグズグズしていたら、そっちの方がストレスだとわかった。グズグズする方がストレスなんだよ」と言い出したのは、3年生の終わりか4年生の始め頃だった。
 だけど、4年生の途中で引っ越しがあり、一時的に反抗がひどくなった。当時は私も引っ越しのストレスが強く、息子に当たってしまい、それは私のせいである。そして息子のそういった態度は、常に夫か私に向けられていた。