息子のこだわりの強さはあらゆるところで表れた。
 0歳代から人の好き嫌いもはっきりしていて、場所見知りも強かった。そして外に出たがるクセに、外では基本的に神経が緊張するようで、家に戻ると必ず大泣きをした。そういうのがない時は、だいたい外で一度大泣きした時だ。スーパーに行けば「抱っこ」と手を伸ばす。抱っこをすると下ろしてくれと蹴りながら泣き出す。下ろすとまた「抱っこ」のポーズである。カートに乗りたいのかとカートに乗せてみる。大泣きは続く。やっぱり抱っこかと抱っこしてみる。まだ続く。下ろしてみる。大泣き。おむつか眠いのかお腹が空いたのか。色々考えてもわからない。周りの目が気になってくる。とりあえず大泣きのまま抱っこして、ササッと買い物をする。逃げるようにスーパーを出る。車の中で私が大号泣。怒鳴りながら帰ったこともあった。その頃の私を「こんなこともあるんだよ」と抱きしめてやりたい。自分が悪いのだろうと思って、誰にも言えなかった。
 都市に旅行に出た時も、大都会の駅で何故か大泣きを始めたことがあった。3歳頃のことだ。それもウエーンと泣くのではなく、叫ぶように号泣。こちらの言っていることも理解し、ある程度話せるのに理由がわからない。とりあえず抱っこして歩くが、荷物もあるし重くて私の抱っこが続かない。まだ大泣きしている。本当に理由がわからない。夫が仕事があったのでその時いなかったことを悲しんでいたのかな、くらいしかわからない。ホテルの部屋に着いたら、また私が号泣。夫がついているような旅行だとホテルの部屋から私の怒鳴り声が聞こえたこともあったらしい。私が怒鳴るのは、何故泣いてばかりいるかわからないから私もきっと不安だったのだ。しかも、時々ではない。一日に2回は、親にはわからない大号泣をする。何か思い通りにいかないのだろう。でも本当にどう泣き止ませたら良いのかわからなかった。
 なだめてみる。厳しい声をかけてみる。穏やかに声をかけてみる。理由を聞いてみる。感情を分かち合ってみる。やっぱりキツく言ってみる。どれもダメ。
 どれもダメだから、私は自分なりの対応の仕方でするしかなかった。心理学の本をよみあさるしか、やり方はなかった。周りの誰の助言もまったく役に立たないからだ。それは周りの助言した人のせいではなくて、息子の特性なのだ。息子は、「いわゆる乳幼児への対応の仕方」がまったく有効ではない子だったのだ。
 幼稚園に行き始めてからも、別れる時の大泣き以上に、迎えに行ってウチに戻ってからの大泣きの方が激しかった。緊張が解けてリラックスするらしい。幼稚園の色々な先生や、専門家から聞いた。親がいる時に甘えられるから泣いちゃうことは、親が参加するような行事でも出てきた。他の子たちが楽しそうにハシャいだりしている時に、ウチの息子だけ大号泣。まるで私が何か嫌なことでも言ったかのように。
 印象に残っているのは、お泊まり会を迎えに行った時。皆が親の所へ駆け寄っているのに、息子だけ大号泣し始めた。私に会うのが実はいやなのか、と思われそうなくらい、私を見るなり大泣きを始めた。お泊りの間、心配だったし、初めて一日空けてから会えて私は嬉しかったのにと、私まで泣きたくなった。