とうとう始めた。
 ヴォーカルレッスンである。
 いやいや、一年前の今頃、こんな気持ちはまったくなかった。私は楽器をいじるのが好きだったし、息子が通うミュージックスクールの、ライヴを見ながら、あの楽器良いなあ、この楽器もできると楽しいだろうなあ、なんて思うばかりであった。
 しかし以前、どのカテゴリーだったか忘れたがそこに書いたように、自分の英語を生かせるのがカラオケだと気づいた。英語をうまく話せないのに、発音だけがそこそこ良い私は、時々英語を発音したいというちょっとした飢餓感に襲われる。でも話せないから、その気持ちを持て余す。せいぜい数字を数える時や、実はドライヤーで髪の毛を乾かしている時、退屈だからマザーグースを口ずさんでいる。これは大学生の頃に後天的に勉強したもので、教養だとおっしゃる担当の先生の言葉を信じて一生懸命覚えたものがあるのだ。幾つかを完全に覚えてしまって、髪の毛を乾かす時に口ずさんでいると、少しは退屈しのぎになって髪の毛も乾くし、マザーグースの詩も忘れずにいられる。
 そして、車を運転していると、時々自分が洋楽のCDを聴きながら一緒に歌っていることに意識的になった。もちろん簡単な歌詞の部分だったりだけど。そして、一部を歌えるんだよな私、と強く自覚したことで、もっと曲全体を歌いたいなあと思い始めた。
 中学高校の頃は、マドンナやシンディー・ローパーの曲など練習したものだが、自分の声を録音してみると歌詞を追えてはいたけど、声と音程の頼りなさに愕然とした覚えがある。とにかく英語の歌詞に関しては、少しは努力しないと譜割が難しいことも知っている。
 この飢餓感を埋めるために、歌おうと思い、いよいよ一人カラオケに挑戦した。
 だけど気づいてしまった。英語の歌って難しいということ。しみじみしてしまった。一か所の母音の中で、音程が変化すること。女性ヴォーカルのメリハリがすごく強くて、可愛い声やささやくような声とパンチのある声との変化。音域の広さ。邦楽でもそれほど上手ではない方だが、洋楽の自分の下手さには辟易した。歌いながら「あああああ音程がおかしい〜〜!!」と思っていることが少しずつ嫌になってしまったのだ。でも英語をやっぱり発音したい。テイラー・スウィフトの曲なんか、結構頑張って練習して歌詞を追えるようになったのに、この下手さ?! とか自分で嘆かわしい。
 さらに流行りの採点機能を使うと、90点をどうしても超えない。割と自信のある曲でも89点台で、テレビで90点台を出す人たちがどうなっているのだろうと思った。採点する機能のままで歌うと、自分の出だしの音が弱いことにも気づいたが、それをいくら自分なりに改善しようとしても、悲しいくらいに変わらない。
 ちなみに、自信のある曲と書いたが、それも一時間くらいしないと声が出てこないので、採点は歌い始めて1時間後くらいからである。
 どうやったら、節の出だしにスパッと声が出るのか。
 どうやったら、メリハリのある歌い方ができるのか。
 どうやったら、1時間もかからずにすぐにでも声が出るようになるのか。