色々な思いが重なって、洋楽を歌えるようになりたいと思った。
 息子がちょうど、「ドラム、毎週だと大変だから隔週にしたい」と言い始めたところであった。学校の宿題が多いし、好きなことをして自分の時間を大事にしたい息子なので、理解できた。その分の習い事に回す費用を、私のヴォーカルレッスンにあてさせてもらおうじゃないか。月に1回が精一杯だけど、私の性格上、そのくらいが縛られなくて良い。
 そして申し込んだ。
 狭い待合室で、馴染みの教室の先生に「誰が?」と聞かれて「私が」と言い、「声楽、クラシックの分野で良いですか?」と聞かれて「いや、もっと気楽にカラオケで歌えるように」と言い、「ポップス?」と聞かれて「洋楽のロックで」と言い、周りにいっぱい人がいたので、自分のそういう部分を話し、見ず知らずでも周りに知られることがものすごく恥ずかしかった。
 先生に関しては、実はお目当てがいた。
 以前、そこの教室のライヴで、アヴリル・ラヴィーンの曲を歌った先生がいた。アヴリル・ラヴィーンなんて、結構ロックだし、日本人の女性が歌っても間が持たないだろうと思い、あんまり上手じゃないと思いながら聴くのだろうということを覚悟で聴くことにした。すると、その女性、結構頑張る。英語はそれほど慣れていないようなのに、ちょっとだけ照れ笑いしながら、頑張って照れを振り払いつつノッて歌っているように見えた。ちゃんと声が出ていて間が持っている。上手なんじゃないの? と思っていたら、先生だった。失礼しました。
 他にも先生はいるけど、録画したものを観てみると、少々音も外れているし、母もビデオを観て「ヴォーカルがねえ……」なんて言っている。そうだよなと思う。
 そんなわけで生意気にも、アヴリル・ラヴィーンの曲を歌った先生なら、ロックのポイントもつかんでいるし、他の先生よりずっと上手だし。と思ったのだ。
 そして早速レッスンがあった。40分なので、時間をすぐ気にする集中力のない私にもピッタリだ。
 先生は、そこの地域のミス○○に選ばれたこともあり、なかなかの美人さんである。それも顔が薄い方の、私にしたら少し羨ましいタイプの美人さん。体もほっそりスッキリしていて、お化粧はしていたものの肌もキレイ。年齢は私より5〜6歳下のようで、子供さんも何人かおられるようだけど、若々しくてイキイキしている。
 その先生の顔を見ながらレッスンを受け、時々目の前の鏡をふと見ると、ずんぐりむっくりした私がぼさっと立っていてガッカリした。しかも顔がいかめしい。眉毛が太く、目の周りが年取っていて、薄めの顔立ちの美人さんを見た後に見る分には、どうにも濃さの面で迫力があって、何だかガッカリする。だから鏡からは目をそらすようにしていた。