■

　中学生の息子がいるというのに、今さら卒業式、入学式に着るスーツを買った。ワンピースに地味な卒業式用のジャケット、入学式用ジャケットがついた三点セットである。
　何故今さら買ったのか。
　元々息子の入園式の時に買った白のスーツを持っていた。かなり厚いツイードでできていて温かく気に入っていた。襟は丸くていわゆる「ノーカラー」ってやつで、大人っぽい。３０代前半の私には、落ち着いたそのデザインが魅力的だったのだ。そして卒園式には元々持っていた地味目のスーツを着て行っていた。それは茶色の細かい千鳥格子の模様なのだが、卒園式にしては少し派手かなといった印象である。
　でも小学校の卒業式の時、やはりどうにも自分が浮いた印象があり、特に私は地域に溶け込んでいないタイプなので、なんだかなあとモヤモヤした。でも息子は中高一貫校なので、あとは高校卒業式の時にどうするかなと思う程度であった。
　ところが、中高一貫校なのに、中学の卒業式も高校の入学式も、保護者は皆参加するのが基本だと聞いた。私の中高一貫校は、そんな大げさなものじゃなかったのになあ。
　というわけで、スーツがほしくなった。三点セット、通販なら結構安くて可愛らしいのが手に入る。そして誘惑に負けた。両方翌年なのに今年もう買うのかと思われそうだが、来年ではギリギリ過ぎて焦りそうなのと、誰かとまったく同じだったらいやなので、今年買うことにした。そして、今まで卒業式で来ていたスーツはもしかしたら別の場面でまた着る機会はあるかもしれないものの、入園式、プラス二度の入学式の時に着た白のスーツは、状態も割と良いし、しっかりした生地だし売ることにした。１月だと季節的にもちょうど良いし、売れるだろうと思った。何しろ生地も状態も良いのだ。しつこいけど。
　で。
　だいたい想像がついているだろうが、高くは売れなかった。そんなものだ。しかしである。高く売れないどころではなかったのだ。値段がつかなかった。決して汚れているわけでもどこかが破れていたりほつれたりしているわけでもない。
　その理由は、「デザインが古い」であった。
　ちょっとした衝撃が走った。
　そうだったのか！
　こんな形式ばったスーツでも、デザインが古いとかあるんだ！　私はこの古いデザインの物を、数年前に懲りずに着ていたというわけだ。やっぱり買い替えて良かったという気持ちが頭をかすめた。生地が傷んでもいないのにデザインが古すぎて売ることすらできないなんて、何だか泣けてくるではないか。
　母に、そういう行事の服はどの程度の数買ったか聞いてみた。すると、入園式は着物であった。時代ッスかね。チョコレートプラネットの一言が頭の中をよぎる。その後、入学式には普段着ることができる素敵な色のスーツを買ったらしい。やっぱり時代かも。羨ましい。今どきはスーツを着る機会も少なければ、そういう行事で着るスーツは随分うるさくなっている気がする。