近所の犬に関して少し続きます。
 この犬が猛烈に人懐こくてかわいい。
 自分の犬を散歩させているやはり近所の奥さんや犬に、その家の庭から顔をのぞかせ、愛想を振りまく。登下校する子供たちにも可愛がられているし、前なんか郵便屋さんにまで可愛がられていた。
 夫や私が車を出して出かけようとすると、大抵車を追いかけてきて少し吠える。最初は威嚇されているのかなとか思っていたが、夫が声をかけると、それがもう気に入ってしまったらしく、車を少し追いかける遊びと化している。そして少し吠え、夫や私が声をかけると、じっとこちらを見ている。おやつとか何も与えないのに、気が向くと度々車を追いかけてきてくれる。でもなかなか柴犬らしいツンデレで、気分が乗った時にしかやってこない。暑い日々は、軒下で「あぢぃー」ってな感じで横になり、こちらに一瞥くれるだけである。飼い主のご主人と遊んでいる時は、ほぼ、目もくれない。でも時には急にこちらの車に向かって吠えて追いかけてくるものだから、ご主人に申し訳なく思うくらいである。
 私たちは、飼い主の方と喋る機会がなく、名前を知らなくて、「わんわん」と呼んでいるのだが、「わんわん元気?」とか「わんわん寒いね」とか言っていて、「行ってきまーす」と声をかけてその場を去る。あの犬は、自分には二通りの名前があると思っていないだろうか。(後に、散歩させている時に、名前を聞きました。尻尾振っていて可愛かったです。)
 その犬が可愛いポイントがもう一つある。
 よく塀の上にあごを乗せて、外の様子を伺っているのだ。コンクリート塀の上には、木の柵があり、木は斜めに交差している。そのコンクリートの塀と木の柵の間に顔をニュッと出し、あごを乗せ、誰か通らないかなあと待ち受けているように見えるのだ。その様子が可愛い。しかもその犬、端正な顔立ちをしていて、目が合っても澄んだ穏やかな瞳。
 最近気になっていることがある。
 その犬、車を追いかけてきた時に、その木の柵をガシガシあぎあぎと、噛んでいた。その噛んでいる口元が運転席からアップで見えると、なかなか獰猛な歯や歯茎が見えて、ちょっと引くのだが、それに笑いつつ、こちらも懲りずに声をかけていた。「激しいね、壊れちゃうよ」とか言ってみたりしていたのだが、ある日、追いかけてきて、いつもの場所辺りに来ると、木の柵はもう壊れていた。ぽっかりと穴になっている。そこからこちらを伺っているので、顔がよく見えるし、やはり声をかける。すごく可愛いのだけど「ねえ。あの穴から抜け出さないんだろうか。充分抜け出せる大きさだよね」と息子に話したら「いつ気づくんだろう」とか言っている。様子を見ているとやはりご主人が好きで仕方ないようだが、だけど柴犬だ。油断してはいけない。柴犬は気まぐれである。
 あの穴からこちらを見て、私たちが声をかけながら、最近、ほんの少し心配している。