中一だった息子にとって、歯のこととは言え私が手術して入院したことはショックだったようだ。毎日学校帰りにお見舞いに来て、自分のことを自分でするように頑張り、張りつめてクタクタになっていたようだった。
 その直前の週は、9度超えの熱を出し、嘔吐し、3〜4日間、高熱が下がらずに点滴の毎日だったことから、その頃から体にも気持ちにもストレスがかかっていたと思われる。
 私が退院した直後もしばらく疲れていたからか、免疫力が落ちている風であった。
 息子のストレスが体にかかっているなあと気になっていた数週間後、息子がある薬で蕁麻疹を出した。何十分とおかずにひどくなっていき、怖くなって病院に急いで連れて行ったら病室内で嘔吐し、気を失った。横でどうして良いかわからない私はすぐそばにいて体を支えているしかなかった。本当に怖かった。テキパキと動き回っている看護師さんたちやその会話が本当にありがたかった。主治医も落ち着いていた。点滴でその日のうちに落ち着いた息子は「生きててよかった」と言っていた。
 その直後から、私たちの寝室のベッドの横に布団を敷いて寝るようになった。
 私も、阪神大震災の直後、一人で寝れなくなったことがある。命のはかなさを感じて、怖くて仕方なかった。地震の揺れの中、一人きりでいたことが本当に心細くて、親が無事かも心底不安に思った。初めて命を脅かされ、「一人では寝れない」と思っていた。一か月ほど続けた後、もう大人なんだしと頑張って自分の部屋で寝たが、数か月間、就寝中に電気を消せなかった。23歳でそれなんだから、思春期入りたてのまだ少年から抜け出せない息子が、急に一人で寝れなくなったとしても不思議はない。むしろそういう気持ちを素直に出してくれたので、対応がしやすい。
 ところがこれが、思ったよりずっと続いた。息子は一人で寝るようになるのか?……と心配していたが、息子は自分から「もし僕が高校生になっても一人で寝れなかったら、僕は僕自身を心配する」と笑って言っていたので、一人で寝なくちゃと考えてはいることを知り、じゃあ高校生まで何も言うまいと思っていた。
 しかし、とうとうある日、ちょっと小言を続けると、拗ねて一人で寝てしまった。そして、その日を境に、時々自分の部屋に行って寝るようになった。
 前年の私の手術、入院や息子の蕁麻疹で気を失うことがあった後、一緒の部屋に布団を敷いていただけでなく、すごく甘える時間が増えていて、夫と「これが済んだら本格的に離れちゃうだろうね。最後の波だよね」と言っていたので、小学五年生の時に一人で寝るようになった時より、今回の方がもっと寂しい。日常生活でも「離れてきた」と感じていたし、実はちょっと前から「そろそろ一人で寝始めるのも時間の問題」と思っていたので、「来たな」と。日によって自分で寝る場所を自由に選んだら良いよと、布団を両方で用意している。息子は誰に強制されることもなく、我慢や強がりでなく、自ら本当に親から離れることを選び始めている。私たちは寂しい気持ちをこらえて、それを受け入れることにしている。当たり前だけど。もう何年かしたらこの家を離れて大学に通い始めるのだ。田舎に住んでいるってそういうこと。頑張れ私!あ、息子!か。