映画の軽い感じを出すことに役立っていることのもう一つに、要所要所でディスコミュージックがかかるということがある。宇宙船に乗ってきた船長が持ち込んだものである。「持ってきた曲の趣味が悪い」とワトニーは口悪いが、度々聴いて楽しむ。そして、あまりにも映画の内容通りの歌詞のことが多いので、これはミュージカルじゃないかとツッコミを入れたくなる。
 特に印象に残った二曲について書こう。
 まずデビッド・ボウイの「Starman」。これがベストタイミングで流れる。最初のギターの音からもうカッコいい。ワトニーを救うために覚悟を決めて、とにかく行動する皆。次々とその行動が連鎖していく感じ。Starmanは、果たして地球上にいる人々にとってのワトニーなのか、ワトニーにとっての地球上の人なのか、宇宙船にいるスタッフなのか、或いは人類にとって宇宙のどこかで見守ってくれている何か、誰かなのか。もはやデビッド・ボウイなのかもしれないとさえ思えてくる。そして歌詞の本当の意味合いは違っても「みんな失敗したって良いんだよ」「スターマンが見守っているから大丈夫だよ」と聞こえてくる。この曲が流れている間、力強いメロディで、力の届く歌詞であると感じ、感傷的なシーンじゃないのに涙が止まらなくなった。
 もう一曲。面白かったのが、アバの「Waterloo」。映画を観に行く直前に調べてみると、ナポレオンの敗戦がテーマだと知り、また調べておいて良かったと思った。
 火星を脱出する時に、その限界ギリギリすぎるアイディアを出す人が「おそらく、この計画は気に入らないだろう」と、NASAのスタッフに、その無茶過ぎる計画を伝える。でもそれしかなかった。燃料とか日数とか軌道とか計算して(個人的に、これを思いつきスパコンで計算した男の子の個性がめちゃくちゃ可愛いと思いました)、さらにそれを実行するには、それが無茶でありベストなのだ。案の定、「なんだよそれ。もう聞きたくない」と、その無茶っぷりに呆れられるのだが。そしてその案はどうなったのかと言うと、ワトニーが行動で示してくれる。その時に「Waterloo」が流れる。そう、もうこれは負け戦。こんな明るく負け戦の曲が流れるのだ。この映画にピッタリじゃないか。決して深刻になったり、投げだしたり、感情的になったりしない。負け戦でもやるしかないっていう。淡々とした感じをこの曲で表している。ちょっとした笑いが自分の中で起きて、胸がいっぱいになるシーンだ。
 ちなみに息子はこの無茶過ぎる計画を伝えるシーンを、一番印象に残ったシーンとして挙げた。16進数を使ってワトニーが交信を思いついた時に「なるほど!」とささやいた息子を思わず見た時にも私が感じたこと。息子の偏ったところや周りにできないと思われていることが、なんて些細なことなのかと。それを気にしてしまう私の器の小さいこと。工学者と科学者の間を行ったり来たりしている夫。数学に関することが大好きな息子。別にそんなにスゴイぞ立派なんだぞってわけじゃなくって、単純に私は隣に座る二人がそういう分野が好きなことを心から誇らしく思った。そしてこの気持ちを忘れてはいけないと強く思った。それだけでも、私にとって、この映画を観た価値はある。