『オデッセイ』を観ながら、私はマンガ『宇宙兄弟』、向井万起男さんの『君について行こう』、NHKのドキュメンタリー、中でも『コズミックフロント』を何度も思い出していた。彼らはいつも好奇心に満ちていて、考えることを止めないし、とにかく行動してみる。
 『オデッセイ』で、果てしない景色に一人きりという状態もそうだが、何度も危機が訪れる。その度に毎度毎度、絶望を感じる自分がいやになった。そしてその度に何とかしようとする主人公の宇宙飛行士、マッド・デイモン扮するマーク・ワトニーの姿に胸を打たれた。ワトニーも、それを支える地球上の人たちも、そして宇宙にまだいる仲間たちも、まず「考える」のだ。考える作業をやめない。打開策を考える。とにかく考える。そして行動に移す。試してみる。この思考力と知力、ひらめきと行動力に、何度も何度も心を揺さぶられ、そして心から彼らを尊敬した。こんなにもギリギリの展開があるものかとも思うが、宇宙でトラブルとなれば、いつだってギリギリの事態になってしまうだろう。どなたかのツイッターで「怒鳴りあうシーンがない」と書いてあったが、まさにその通りだと思った。彼らは考え、発想し、議論し、気持ちを確実に交わしているが、冷静さは失わない。素晴らしい感情コントロールと表現力。別に彼らの考えや発言、すべてが理屈というわけではない。感情の正しい表現方法を知っているのだと思う。どういった環境で育てばこんな風になるのだろう。もちろんその人の持つ素質もあるのだろう。映画だからというわけでなく、そういった人たちが実際にそうやって働いているようだ。
 一度だけ、ワトニーが、いよいよ火星を離れる瞬間に泣く。その時のマッド・デイモンの表情がものすごくグッときた。それまでの火星での辛さや緊張感、それから解放される気持ち、これから助かって皆と会えるかもしれない安堵感などだろうか、色々な感情が伝わってくる。ここが一番感情が強く出る場面ではないだろう。
 又、救われる時に、一旦手は離れるだろうとわかってはいてもこちら側は「あっ!」と思うし、紐につかまるだろうと思っても頭の中で必死で「紐がある!紐!」って思ってしまった。わかっていても首に力が入るのだ。自殺行為にもなるようなその判断なのだが、船長はそんなこと咎めない。一瞬、なんてことを、と悪態はつくが、救われた喜びに沸く。
 もちろん喜びや嬉しさを率直に出す場面は多くて、そこは観ていて気持ちが良い。怒りや悲しみ、心折れるような気持ちを出す時に、相手を傷つけたり周りを巻き込んだりすることなく言葉できちんと説明できる、ということが言いたい。そりゃ悪態をつくくらいはある。ワトニーが、本当に嫌気がさした瞬間もあり、キーッとなる場面もある。そりゃなるよねって思いと共に、あとの作業ほぼすべてを淡々とこなしていく姿はもはや神々しいとさえ思える。
 そして、彼らの知性をとびきり感じるのは、ユーモアがあるところである。ピンチの時や悲惨な状態の時でも、軽い感じやジョークで、その場をしのいだりする。それでどうにかなるわけではないが、泣き言いったってどうにかなるものでもない。こんな状況になってユーモアを忘れないその精神力に圧倒されるが、その気の持ち方にきっと周りだけでなく本人も救われる。ユーモアは知性だ。笑いは力になる。