しかし、個室に移った夜は久々の爆睡である。もしかしたら、全身麻酔以来かもしれないくらいの爆睡。
 「12時くらいに、見回りに来ますけど、起き上がらなくて良いですからね。寝てたら横になったままで」と、看護師さんに言われていたのだが、起き上がるとかじゃなく、まったく気づかなかった。本当に久しぶりにぐっすり一晩寝た私は、翌朝、快便で、外来に向かい、そうやって退院の許可をもらったので、とても嬉しかった。
 おかゆも晩からご飯に変えてもらい、退院の手続きについても、詳しく教わった。
 病院側にしたら、何人も退院に送り出し、ついつい説明しなくてもという部分があるだろうが、初めて聞いてもわかるようにきちんと説明をしてくれた。
 退院手続きをしに行き、最後の点滴をすると「気をつかわずにシャワーを浴びたら良いですよ」と許可が出た。元々抜け毛の季節で抜け毛が増えていたのに、一週間ぶりに洗うと、「これで一人分のカツラが出来上がるのでは」と思うくらいの量の髪が抜けた。
 全身を鏡で見てみると、入院前以上に、体がぶよぶよになっている。たった何日かで、こんなにも筋肉は落ちるのかと驚いた。一か月入院した友人は、久々に出勤したら筋肉痛になったと教えてくれていた。私の脚は、セルライトがひどいのだが、ひどいなんてものじゃなかった。もう自分の脚にはセルライトしかないのではという状態であった。
 毎晩訪れて、様子を見に来る担当医には、外来の時も晩に様子を見に来る時も、「この人は毎回色々と質問をして面倒くさいなあ」と思われていたかもしれないが、必ず何か聞いていた。最後の日は「ウオーキング程度の運動ならいつ頃からしても良いですか?」と聞いたら「ああもういつでも」と言われた。「温泉は?」と聞くと「それもいつでも良いですよ」と半笑いされた。
 一晩またよく眠れて、起きたら退院の日である。
 待ちきれない私は、サッサと荷造りを始めてしまった。
 尿量を計らずに済む!!普通にオシッコできるう〜!
 些細なことが嬉しい。
 嬉しいが、まだギリギリまで心配なことがある。
 気が張りつめていた息子が、グズらないだろうかということだった。帰宅中、或いは帰宅後、或いは帰宅して翌日、数日後。
 三歳の頃に、胃のポリープを切除、精検するためにたった一泊いなかった時も、帰宅後、一時間くらい泣き続けた。「寂しかったんだね」「辛かったね」と声をかけ続け、うなずきながら泣き続けた息子だった。12歳とは言え、まだ少年で、気持ちをぶつけてくる息子である。しかも最近は反抗心も出てきていて、変な絡み方をしてくる。なので、これが一番心配であった。
 退院万歳!!であり、一抹の不安がよぎってしまう。