すぐに「あっ。これはもしや終わったのでは。」と気づいた。
 「もうあっという間。寝ている間に終わっているよ」と、全身麻酔を経験した人たちから話を聞いていたので、ピンときたのだ。確かに、よく寝たわあ〜っていう感覚はある。
 でも、確かに心電図を付けたからと二回ほど深呼吸をしたのは覚えているけど、本当にその後は何も記憶がない。手術は二時間と言われていたが、これならかなり早く終わったのではと思った。しかし、やっぱり二時間経っていたのであった。あれはすごい感覚である。二呼吸の次には、「○○さ〜〜ん」て呼ばれたのだから。こりゃ確かに皆笑い話になるよなと思った。でも麻酔が効くまで、看護師や医者が数を数えて「1、2、3、4……までしか覚えていない」だの「2までしか」だの聞いていたのだが、私は数も数えられていない。せいぜい自分で二呼吸、と覚えている程度である。もしかしたら、数を数えるシステムなどない病院か、そういう方針の医者なのかもしれないけど、もしかしたら、私があまりにアッサリと麻酔が効いて、数を数える必要などなかったのかもしれない。
 事前に説明を受けていた通り、鼻から入れていた管を抜く感覚は、うっすらあった。これは外来で、別の麻酔科医が、非常に丁寧に説明してくれていたのであった。まったくその通りであった。
 手術台に乗る前に、どの先生が執刀するのか緊張もあってわからず、フラフラと手術台にのぼって寝たものだから、終わったらちゃんと挨拶したいと思い、渾身の力で「ありがとうございました!!!」と、お腹の中から言った。つもりだった。……声は全然出なかった。内心笑ってしまった。こんなにも声が出ないのかと。
 その直後、「ご家族の方がいらっしゃるから、先生、説明を」という声が聞こえ、執刀医が返事したのも覚えている。それから私は担架に乗せられたのだが、これがどうにも「面白かった」。体に皆無、力が入らないところを「せーのっ!!」と二人くらいで担架に移動してくれる。わっ面白い、楽しい。と思った。担いでくれている人たちは大変なのだろうから申し訳ないのですが。
 そして、目を開けてみたら、運ばれているために天井がグルグル回って吐きそうになったので、すぐに目を閉じた。「お疲れ様!」と、夫の声が聞こえたので、一瞬目を開いて夫の姿を確認した。「大丈夫」とわかってもらうために、精一杯うなずいてみせた。
 その時は、痛いとか悲しいとか嬉しいとか何の感情もないのだけど、涙がダラダラと流れていたらしい。きっと手術に対して、脳が勝手に反応していて、感情とか関係なしに涙って出るものなんでしょうね。
 それからしばらくしたらまた「せーのっ!!」と声がして、いきなり体が浮いて別の場所に寝かされた。うっすら目を開けると、病室のベッドだった。また面白いなーと、その感覚を楽しんだ。
 その後は多分寝れなかったはずなのだが、点滴を付けられていない左手が少し動くと思い、声は出ないから、そばにいる夫に色々訴えたくなった。何を訴えたかったのかは今は思い出せず、私が書いた内容を後から見てみた。