私が一週間入院して家にいないことを知り、不安そうな夫と息子を見ていると、何故か安心してしまい「まだ二か月も先なのに、ずっと心配していたら身も心も持たない」と思い、少し気が軽くなった。そして、入院するまでの間に少しずつ家のことを教えていかなくちゃいけないなと思い始めた。
 引越し前後から、猛烈に仕事が忙しくなった夫は、アパートの頃より家のことに目を向ける余裕がなくなった。子供が少し大きくなってきたことも理由の一つだ。息子がだいぶ成長したことで、私がそれほど精神的に追い詰められない。私と息子を長時間二人にしておいても、二人とも煮詰まらなくなったし、夫も仕事の比重を少しずつ重くしていた頃に、大地震が起きた。地震で被害を受けた所で、夫の仕事が関わることが増え、負担が増えていっている。息子は精神的な安定を遂げたことで、私もやっと躾に一生懸命になれて、そんなことに時間をかけていると、家のことはまだまだ私一人でやらなければいけないのであった。少しずつゴミの出し方、物の置いてある場所を教え始めた。
 大きな病院とは別に、かかり付けの歯科医にも通わなければいけなかった。歯肉炎と歯周病への危機感を私に植えつけなくてはいけなかったし、歯石取りが終わったら、小さな虫歯が幾つかあったのでそれの治療や、親不知周辺の消毒のためである。
 そんな中、またやらかしたのが、滅多にない「歯磨き忘れ」であった。以前もあったが、時々朝の支度がイレギュラーになると、うっかり朝の歯磨きを忘れてしまうことがある。とは言っても、平均しても一年に一度。午後に思い出して「あっ」とおもむろに磨き始める。でも今回は、座席の背もたれが下がり、口を開くまで気づかなかった。もう遅い。最初のチェックを終わった後に慌てて言ったら「ああ、良いんですよ」と、そんなの構わない風で流された。でも恥ずかしい。何と言っても、夫も通っている所なのだ。あの奥さん……て内心笑われているかもしれないとか思うと、猛烈に恥ずかしかった。
 さらに、歯を見てもらっているのに、しかも虫歯治療中なのに、寝てしまった。今までそんなこと経験したこともない。改めて、何故私はこんなに歯の治療に対して緊張感とか嫌悪感がないのだろう。リラックスしきっている。でも夫に言ったら「あの席、気持ちいいもんねえ」とか言っている。夫は「歯医者ってさ、こっちがなんにもしないで横になって時間を過ごしているだけで、メンテナンスしてもらえて、すごくいいよね」なんて言っている。夫婦揃って歯科に対しての抵抗がなく呑気である。まあもしかしたら、そこの歯科の人たちの腕が良いのかもしれないです。
 そういえば驚いたのが、虫歯治療である。最近は銀歯なんてかぶせない。白いんですね。前歯二本の間に、よく磨いているから隙間ができて奥が見えているのだと思っていたら、虫歯で黒くなっていたんです。知らなかった。治療の説明もちゃんと受けたものの、どの程度どうなるのか想像がつかず、寝て起きたら、歯が白く綺麗になっていたのでびっくりした。あれは虫歯だったのかと。そしてこんなに歯に似せたかぶせものをするのかと。本物みたいでわからな〜い!鏡を見せられながら、心の中は大騒ぎであった。素晴らしい技術ですなあ。