歯のCTを撮りに行った。迷路のようになっている病院の廊下を指定通りに歩き、人通りの少ないところに来て少々不安になった。あのでっかい筒の中に入るのだろうか。先のことをあまり考え過ぎない私が、緊張し始めた。いやだなあ……。
 しかしCTは、筒状にもなっておらず、細い輪っかだった。上下したりくるくる回ったりしている輪っかの中が、時々ピカピカと鈍い光を放っている。好奇心に勝てず、だけど動くなと言われた私は、目だけキョロンキョロンと動かしてその光や動きを確認していた。
 あっさりとCT は終わり、主治医ではない(この時点でまだ主治医には会ったことがなく、少々不安でもあった)先生が説明をしに来た。
 「神経に触っていて、ちょっと、数十分の切開では終わらないと思うので、入院して手術することになります。」
 「……入院!」
 「全身麻酔して、ついでに上の二本も取っちゃいましょう。」
 「……全身!!」
 「一週間の入院になります。」
 「……一週間!!!」
 カウンセラーか。とツッコミ入れたいくらい、私は模範的なオウム返しをした。
 全身麻酔って怖いのではという思いと共に、すぐに夫と息子のことを心配した。息子はさぞかし寂しがるだろう。数日前、息子の態度に対し、久しぶりに怒鳴ってしまったところである。夫も息子も朝食や片づけに困ることだろう。掃除は一週間くらいしなくてもそれほど困りはしない。帰宅した私がちょっとうんざりするくらいだ。でも、特に今の家に引っ越してからは、私は家のことをほとんど一人でしてきた。二人は何も知らないも同然である。夫は引っ越した後くらいから猛烈に忙しくなって、家事の協力も期待できなくなった。息子は自分の身の回りのしつけの最中でまだ精一杯。食事はどうしよう。わあああ……。頭を抱えたくなる気持ちと、二人の気持ちを思って涙が出てきてしまった。そして、一通り心配したところでまた「全身麻酔か」。中にある歯を出すってどう考えても怖い。
 帰宅してから、またすぐネットで調べた。
 最近は、他の医者たちが、掲示板にセカンドオピニオンならぬ、多数オピニオンを寄せてくれているんですね。本人の顔写真と診療所の名前と共に。
 結構いました。「親知らずを抜くために全身麻酔し、ついでに他の親知らずを抜いてしまい、一週間ほど入院する人たち」って。そして、大きな病院て、そういうのは大した「点数」にならないんですね。だから、そこまでやってくれるのは、親切心だと、個人病院の歯医者さん含め、色々な歯科医がそうやって抜くことを勧めていました。
 その前日、なんとなく険悪な雰囲気になっていた夫に伝え、数日前に怒鳴った息子に伝えた。夫も息子も、心配全開だった。自分たちの生活も大変になるということと同じくらい、夫は私の体を心配していたようだったし、息子は寂しい気持ちを訴えていた。
 そんな二人の様子を見て、何故だかちょっと安心してしまった。