数年前、夫が「歯茎が痛い。膿みが出てるかも。」とか言いだしたので、心配になり、近くで評判の歯医者に行ってもらった。すると、徹底的な歯磨き指導をされたと言い、その後それまでより熱心に歯磨きをするようになった。素晴らしい。でもさぞかし厳しい指導に違いないと、以前の歯科を思い出し、虫歯が出てからとか、息子が中学に入って今までより厳しい歯磨き指導を受ける頃になってからとかでいいやとか思っていた。10年以上前の厳しい歯科での歯磨きは、そこそこ生かされていた。縦磨きとか角度を変えてとか上下の前歯の裏の磨き方など、ずっと続けてはいた。ただ、だいぶおざなりではあった。時間をかけるのが面倒になっていったということもある。にしても、妊娠中に歯科に通った時以前よりは、歯磨きに時間をかけるようになってはいたので、そこそこ磨いていたと思う。
 しかし。
 体調の悪い時期によくどこかに炎症を起こす私は、口内炎を作ることもあって、その時も口内炎ができたと思い、最初そういう薬を塗っていた。それにしても痛いし治らない。……どうやらこれは口内炎じゃないぞ、と気づいた。数日経ってからである。それでとうとう、夫の通う歯医者に行った。
 わかったのは、まず膿ができていたこと。その場ですぐに切開し消毒した。次に、小さな虫歯が数本あることもわかった。それは追々治療するとして、さらに歯周病になっているから歯周病菌を顕微鏡で見せますと言われた。
 顕微鏡を大きな画像で見せてもらい、絶句した。ピリピリしている小さな菌がいっぱいあるのと別に、線みたいな菌がいる。「ある」のではなく「いる」。明らかに「いる」。意志を持っているかのようなのだ。カクカクと動き、小さな菌とは別で、立派に意思を持った生き物として動いているようである。それも結構たくさんいる。こんな変な気持ちの悪い生き物を、私は口内にたくさん飼っているのか。それも私の意志とは別に、無意識に飼っているわけだ。自分の体の中に、自分で無意識のうちに、気持ちの悪い生き物をこんなにも大量に飼っていることが信じられなかった。しかも小さな場所にこんなに。全体ではどれほどいるのか。もう画面から目が離せない。そのうち、その線の生き物は、動いて見えなくなった。と思うと別の場所からさっきのとは違うのかもしれないが、線の生き物がまた出てきた。さらに右から左へカクカクと動いていった。そして左から右へ。頭の中で「誰だよ」とツッコミを入れていた。そのうちTAIGAの「お〜ま〜え〜誰だよ!」というフレーズが渦巻いて、笑えてきた。もうそこに映っている「皆」が自分の体の中にいて自分のことをよく知っているように思えてきて、「やあ!」と挨拶しているようにさえ見えてくる。
 あまりの量に「すごい……」と声に出さずにはいられなかった。「すごい」とか言っている場合じゃないよなと思ったが、心の中では爆笑していた。
 歯周病は、ひどくすると口臭もしてくると言うから、きちんと磨けていない奥歯、特に私の場合はほっぺた側を磨かなければと思い知らされた。今や週に一回もあるかないかという歯間ブラシももっと頻繁にしてくださいと言われた。