この辺りにカフェができるまでは、この土地に引っ越してきてからあまりに田舎でオシャレな所がなかったため、夫と二人、そういった雰囲気に飢えて、わざわざ2時間ほどかけて出かけていた。オシャレなカフェというのは、子育てをしていて息苦しく感じた時にはとても解放的な空間なのである。そこは、基本的に子連れがダメなのだが、通い始めた頃はまだ「静かにしているならok」とのことだったので、息子は大丈夫だった。よく泣く息子だったが、食べている間だけは静かだったのだ。息子は食べる時、夢中になる性分であった。
 そのカフェはコーヒーもとても美味しいと感じるのだが、ケーキもなかなか美味しい。どれもどっしりした重みのあるケーキなのだが、化学的な味もしないし、クリームで胸焼けするとか、脂っぽいとかそういうくせがなくて、どれも美味しい。そして、そこの店の売りでもあるスコーン。糖分控えめで小さな子供にも大丈夫そうなスコーンが抜群に美味しい。まだ2歳くらいの息子にも、体に害になるような物は含まれていないと思われるスコーンを食べてもらっていた。ジャムもクリームも、こだわりを感じた。あっさりしていて口当たりが良かった。夫は「ここには、小麦粉の神様がいるに違いない!」と冗談を言っていたが、本当にそのくらい美味しかったのだ。
 そして、夫と似たような顔をした子供が、夫の膝の上で、2つのスコーンを分け合って食べている様子はとてもほほえましかった。店の人とも顔見知りになり、今はその店、基本的に子連れ禁止のようだが、もう10年も顔なじみなので、何も言わなくても「大きくなったね」と笑ってもらい、すんなり入れてくれる。この子は騒がない、ということは知られている。いや正確には「この子は食べている時だけは騒がない」である。特に幼い頃は。食べ終わったらすぐに出ないとグズグズ言ったり泣いたり話が止まらなかったりと、うるさくなるので、こちらは必死で子供に合わせて食べて飲む。そんな理由で私もずいぶんと早食いになってしまい、しかもそれに慣れてしまって、時々自分のガツガツっぷりに驚いて引いてしまう。無酸素運動ならぬ無酸素食事。落ち着いて食べなくちゃ。
 それでもそのカフェは、子供が幼い頃の、私にとってのささやかな息抜きになり、その前後には息子のために、近くの公園で遊んで帰ったりした。「息抜きだ〜」「オシャレな空間だ〜」と、今住んでいる場所から、本当にすがるようにそこのカフェに通ったものだった。
 今は近くに色々できてきたし、息子もその辺のカフェでケーキとか紅茶とか時には楽しんでくれるようになったので、そこまで足を伸ばさなくても良いのだが、年に1回くらいは行く。そして毎回息子の成長を喜んでくれる。ありがたいし、大好きなカフェである。