とうとうやってしまった。
 白いプリウスを買ったのは、4年ほど前。
 当時は、マイナーチェンジの直前で、マイナーチェンジを待つと好きな色が選べるが、数十万高くなると言う。その時残っていた色は、黒か白か、キラキラした白か。私たちはささやかな個性としてキラキラした白を選んだ。届いた時、油に浸かってきたのかというテラテラ感があり、笑えたのも少しの間。あっという間に、そのテラテラ感は消え、普通の白プリウスとほとんど差異がない。今でも「時々、ちょっとキラっとしているなあって思うことがあるよね」と言い合う程度である。
 買ってから、周りは白プリウスだらけになった。意識するからだということも確かにあるのだが、実際に白いプリウスに乗っている人は多い。「今度は色のついた車が良い!」と夫と話している。まあそれでも、この車には感謝している。燃費の良い車が環境に良いとかもちろんだけど、それ以上にここの「車に乗らないとどこにも行けない」ような田舎で、燃費が良いのは単純にものすごく助かるのだ。都会暮らしの批判的な人には、このありがたさがわからないに違いない。
 そして、ここにも時々書いているように、違う車に乗ろうとしたことは何度もある。白いプリウスがたくさんあるからだ。そもそも、車のことを何となくしか見ていない私は、プリウスじゃなくても、白い車なら結構平気で近づいていく。ドアの取っ手に手をかけ、鍵が開くのを一瞬待つ。「ピピッ」と開錠の音がしない。あれ?と思って中を見ると、内装や置いている物を見て、違う車だった!と、慌てて周りを見回し自分の車を探す。これを何度繰り返したことか。車の中で待っている時に、夫がその失敗をやらかすと、もう鬼の首を取ったように私は大喜びする。私だけじゃない、慎重で注意深い夫でも間違う!と大笑いする。
 ところがこの前。
 大型店舗の駐車場にとめた時のこと。店舗のドアに向かって側面が見える位置で駐車して店に入った。そして買い物を済ませ、出てきて運転席のドアを開けた。ら!
 ……知らないおじさんが乗っている!
 最初はあまりのことに頭の中で理解が追いつかないんですね。ダンナがわざわざそこまで歩いて来て、驚かそうと運転席に座っているのか?と一瞬思った。ムッとした愛想のない表情だし。でも、気が付いた。あれ?服が違う。いやいやちょっと待って顔が全然違う。冷静に考えてみても、ダンナの職場からサッと歩いて来れる程度の距離でもない。運転席に行儀よく座った知らないおじさんと、ドアを開けた私は、しばらく見つめ合っていた。
 「ハッ!すみません」
 知らないおじさんに謝り、ドアを慌てて閉めた。呆然とするおじさんの視線を感じながら、隣の車に乗って、そそくさとその場を去った。ハッ!と息を呑む声の方が大きかったのではと思うくらいびっくりした。自分がおばさんだという自覚はあれど、心底恥ずかしかった。気を付けなくちゃと心から思った出来事である。