『はじまりのうた』を観ていて、『モテキ』を少し思い出した。最後の自転車のシーンでもちょっと。でも、一番感じたことは、音楽などの文化について、気が合う人と付き合うことになれば、楽しいなということだ。そこも『モテキ』を連想した。
 そんな私も、夫と音楽の話をきっかけに気持ちが近づいた。ちょっと意見が違っても共通に興味のあることがあれば面白い。ある部分で一緒だとわかった時に、通じ合った気がする。どういうところが好きか語り合う。それは、時に男女を結びつけるものであり、又、男女を超越した人間として、会話が楽しい部分なのである。私にとって音楽は大事だ。
 音楽を聴く時に二人でイヤホンをつけるシーンも流れる。奥さんと以前そのようにしたことがあり、主人公の彼女とも試してみる。二人は同じ音楽を聴いて踊り、また音楽について語る。そのシーンを観ていて、一つのイヤホンを友達と分けて登校していたことを思い出した。学校から遠い私は、同じ最寄り駅の彼女と、イヤホンを分けて、同じ曲を聴きながら電車に乗っていた。彼女と「とても気が合い、話も合う!」ということはなかったのだが、音楽だけは何故か好みが似ていた。
 後でパンフレットにも書いてあって「ああそうなんだよ!」と思った部分がある。中年の彼が、「音楽というフィルターを通すと、日常のなんでもない光景が素敵に見える」といったようなセリフを言う場面である。私にとっては一番、印象に残るセリフであった。パンフレットにも書いてあったように、多くの人が頷けるセリフだと思う。私はだから音楽が好きだ。運転をしながら、ウオーキングをしながら、音楽を聴いていると、時々いつまでも運転したい、もっとずっと歩いていたいと思うことがある。この映画に出てくる曲も好きになったので、繰り返し聴きこんでいる。運転が楽しい。
 この文章、音楽のカテゴリーに入れても良いくらいなのだが。
 音楽のこと以外で書くと、男性と奥さんとの会話があまりにも自然で、途中で声を出して笑ってしまった。夫婦ってこんなもんだよね、という会話があちこちに散りばめられている。主人公の女の子のおかげでイキイキしてきた夫を見て、別居状態の奥さんが「どんな人がこんな風にしたのかしら」と、ちょっと興味を抱くシーンもなかなか印象的だ。嫉妬とか女性としての勝ち負けとかじゃなく、興味を抱き、ほんの少しその世界をのぞいてみる。人間として興味を持つ。そこに対する感情は描かれておらず、その描き方も、強すぎる気持ちを観ている側に感じさせず、自然でとても良い。
 最後にどうしても書いておきたいのは、最初は愛想がないなあと思っていた主人公の彼女について。映画が進むにつれ、どんどん可愛く見えてくる。彼女の表情や知的で賢い感じ。人をほんの少し幸せにする温かさとまっすぐさがとても魅力的。彼女の歌声も素敵。ああいう風に自然な声で聴かせる歌、最近聴いていなかったなあ。あと、映画の中でワンピースを何枚か着ているが赤のチェックのワンピースが一番可愛かったし、彼女に似合っていた。私も若かったら、あんなワンピースを着たいと思わせられた。服装を始め、あからさまではないオシャレな雰囲気にもずっと引き込まれっぱなし。色々な面で成熟した大人の映画だと思った。これからも、私の中でトップ5に君臨し続けるはずの映画である。