『アナと雪の女王』が映画で上映された時、ミュージカル映画のようだと言われた。
 観てみると、話の途中で突然歌い出すような場面は、前半の30分だけである。でも、歌の迫力に、ミュージカルと言われるのもおかしくはないとも思った。ただ昔からディズニー映画は、そういう場面があり、そんなに取り立てて言うほどでもないんだけどなと思う。
 しかも、今回は歌詞、特に「ありのまま」という言葉だけが注目を浴びていて今の社会とか、そんなことを求める女性がとか、難しく言う風潮にある。私はそれに関しては、もっと単純に受け止めて良いんじゃないかと思う。「ありのまま」という言葉とあのメロディーは単純に気持ちが良いのだ。だから皆、歌いたくなる。それで良いのだ。
 以前スマップが歌った『世界に一つだけの花』に関してもそうだ。「ナンバーワンにならなくても良い、元々特別なオンリーワン」てところは、歌っていて気持ちが良い。そうだよな、自分の子供を見ていたらそういう気持ちにはなる。でも、順位を決める世の中じゃなくて良い!とか強く思っているわけでもない。順位なんて気にするな!とか思っているわけでもなければ、あらゆることについてナンバーワンだのツーだのベストテンだのあった方がやりがいあったり面白かったりするのも事実で、その辺は割り切って楽しめば良いのになと思う。だから「ありのままの姿見せるのよ〜」って気持ちよく歌い上げていたらそれはそれで良いじゃないか。あのメロディーは実によくできているのだ。
 昔、親友に連れられてミュージカル『レ・ミゼラブル』を観に行ったことがある。女性が歌うある場面で、私は激しく心を揺さぶられて涙が流れた。そこは確かにある程度感動する場面であったのだけど、それ以上に彼女の歌声や歌唱力に心を動かされたのだ。人の歌を聞いて涙が流れるのは初めてであった。それまでは、映画でいきなり人が歌い始めると、結構な名画でも笑うことがあったのだが(失礼ですね)、その時ミュージカルって侮れない!と思った。歌詞ではない、人の歌声やメロディーが人の心を打つことがある。
 『アナと雪の女王』では、松たか子や神田さやかの歌声も素晴らしく、歌詞以上にその歌声に魅かれる。ちなみに英語版では歌詞が胸を打つ。「ありのままの姿見せるのよ。」といった部分は、英語版では「皆に知れてしまったわ、でも知れたら知れたで良いから放っておく」といったニュアンスである。その乱暴な感じは、「ありのままの自分を大切にする」という日本語の歌詞とは離れているような印象だ。さらに、自分で抑えてきた部分であるという日本語のニュアンスであることに対し、英語版では「自分を隠してきなさいと言われてきた」「良い子でいなさいと言われてきた」といったニュアンスで、周りによって抑えつけられてきたけど、そんなのもう知らない!っていうやっぱりちょっと乱暴な感じなのだ。もう言いつけは守らないもんていう。その周りからの抑圧感、息苦しさは自分でコントロールしてきたことより辛いのではないかと、私は英語版の歌詞に心を動かされた。
 そうすると、改めて日本語の訳者がすごいなと感じるのだが、やはり日本語版は主役の二人の歌声が良い。歌詞とメロディと、二人それぞれの声がよく合っている。元々英語の歌詞があるのだから、日本語版の歌詞を色々解釈せず、気持ち良く聞いて歌ってみたりするのが楽しめて良いと思うのだ。