卒業式前日。
 息子は「やっぱり嫌なことあっても楽しかった」「まだ大人になりたくない」と言いながら泣き出した。正確に言えば、前「夜」である。いつもならとっくに布団に入っているような時間にいきなりそれが始まり、ええ〜もう寝てよ〜〜というタイミングだったので、私は非常に素っ気なく対応してしまった、息子は泣きながら寝た。ごめんね。
 当日は、息子が後から話した内容によれば、卒業証書をもらって席についた時に少し涙が出たようだが、舞台上では、息子は歌いながら泣くのを我慢していた。あまりにあからさまに何度も顔をクシャクシャにするので、目について仕方なかったが、保護者の皆さん、きっと自分の子供に夢中で、あまり気づいていなかったと思いたい。ああでも、近くに立っていた子たちの親は、ビデオ越しに知っていただろう。その子たちのビデオに、我が子もきっと映り込んでいる。歌い終わってから、所定の位置に戻る時に、泣いている子たちがいたので、息子もそこまでしてこらえなくてもと思うんですけどね。
 それにしても、六年生が歌を歌う時に、わざわざ壇上に上がったので驚いた。ビデオを撮ることも、私たちが卒業式の時にはなかったことなので、時代で色々と変わったものだなあと思った。ちなみに、子供たちが歌を歌っている時に、こみ上げてくるものはなかった。すすり泣きが、保護者席のあちこちから聞こえてきたけど、私は何ともなかった。涙もろい私が。息子の歪んだ表情ばかりが気になっていたからに違いない。六年間の思い出を語った皆のセリフも、こみ上げてこず。涙一粒も流れないまま終わったわ。と思った。
 しかし、その瞬間は唐突にやってきた。皆が退場する時だった。
 生徒の皆が席から立ち上がり、保護者のいる後ろの席に向かって歩き、角を曲がって目の前を横切って体育館を出る。その角の辺りにいた私は、皆の顔が正面で見えた。
 男女問わず、目を赤くして泣いている子たちがたくさんいた。幼稚園から知っている子もいる。小学校一年生から見守ってきた子たちも。強烈な個性の我が子を受け入れてくれた子たちや、遊んでくれた子たち。一時、嫌なことを言ってきた子たちがクラスの大半を占めていた時も、決して加わらなかった子たちだって何人もいる。加わってしまったけど、私が話すと、泣きだした子たちもいる。前のアパートの下校時も、引っ越してからの下校時も、それぞれに仲良くしてくれた子たち。ずっと見てきた子たちが、次々と胸を張って、でも目を赤くして歩いているのを見て、胸がいっぱいになった。無邪気すぎる息子を受け入れてくれた子たち。周りに流されず、優しく強い心を持った子たち。ありがとうという気持ちと共に、そういう子たちもみんな大きく、立派になったなあと感慨深かったし、別れるのも寂しかった。引っ越してここにはいない二人の友人のこと、その弟のことなどにも思いを馳せた。親同士連絡を取り合い、時には会う。彼らも立派になった。
 息子は、式の最中以外は、サッパリしたもので、「僕、冷たいかもなあ」と笑っていたくらいだった。でも、皆と同じ場所で同じ雰囲気はもう味わえないという気持ちは、たくさんかみしめたようだった。やっとこの学校から卒業である。
 本当によく頑張ったね、卒業おめでとう!!