意識的に、最初に習得した言葉は、東京の言葉に近かった。父方の両親は、岐阜と岡山、母方の両親は、北海道と岡山、で幼少期育ったそうなので、父も母も強烈な関西弁ではないけれど、二人とも学生時代を西日本で過ごしており、関西弁のイントネーションは身についているだろう。そんなわけで、私も関西弁の子音や母音、イントネーションは無意識に顔を出す。それでも、関西弁にはなじみがそれほどなかった。帰国子女だったため。強いイントネーションや、方言に驚いて、後天的に身につけていった。
 しかし小学生の途中からずっと身についていくと、段々それが自然になっていき、細かな地域性の違いはあるものの、一定のイントネーションはあり、東日本の言葉が気取って聞こえることがよくあった。高校生の頃は、男の子が関西弁喋っていないと気持ち悪いくらいに思っていた。
 ところが、段々それも変わってくる。大学で、再びアメリカに行った時、もっと広い範囲で、アジアの男性は可愛いんだなあと気が付いた。ちょっとシャイで、上っ面で社交辞令を言うより先に表情に出てしまう。生意気な感じがしないのだ。青年は生意気で良いと思うのだが、アジア人は、全体的に見て、感情が見え隠れする感じがとても良い。大げさに表現しないけど、にじみ出る感じがね。その辺りから、地域で使う言葉は、それぞれに悪くないもんだなーと思い始めた。
 札幌で育った夫と出会った時も、品も良く、その歯切れの良さが、聞いてて気分良かった。ところが、びっくりした言葉があった。
 「〜なんだよ?」と確認するように言う言葉。これは、関西で男の人が言うと「〜なんやで?」と言うことになる。女性、特に神戸寄りの人だと「〜なんよ?」とか「〜やねんよ?」。これが「〜なんだぜ」である。
 「だぜ」
 実際にナマで聞いたことがなかった私は、仰天した。本でしか目にしたことなかった言葉を、目の前で言われた時、おおいに戸惑った。「〜なんだぜ」。
 「だぜ」って……。
 ええ〜っ。本当に言うんだ。キザな人みたい……。と思った。
 でも、これもほどなく慣れた。
 しかも、広島県育ちの奥田民生も、歌詞でよく使う。「俺は知ってるぜ〜」とか言われると、キュンキュンする。
 いや、ダンナが使っても、キュンキュンは、いちいちしてませんが。慣れちゃいました。当たり前に聞き過ぎて。
 この前、関西人が「東京の男の人の言葉って、ナヨナヨってしてる」って言っているインタビューを聞いて、「ああそう思った時期あったなあ」と思ったし「これはこれでまた良いのになあ」と思って、ふとこのことを思い出したのであった。