ケーキ屋のバイトをしていた時にも、自分の髪の毛の量の多さに驚いたことがある。
 長い髪は一つにくくらないといけないルールだった。他にもう一人「この子、髪の毛多いなあ」としみじみ思っていたバイト友達がいて、その子と二人でシフトに入った時に、髪の毛の量の多さについて自慢し合った。そして、お互いのくくった部分をつかんだ。相手のをつかんで「うわ〜」と驚いた後、自分の髪の毛をつかんで、言葉を失った。友達も私の髪の毛をつかんで「おおう!私より多い!」と驚いて大笑いしていた。そう、私の方が多かったのだ。この子より多いのか……。自分の髪の毛の量の多さに、少し落ち込んだ。
 でも、アメリカの美容院に行った時「まあ、多くて素敵!」と言われた。ちょっと嬉しかった。単に褒め上手なのかもしれないが、「豊かな髪」と言ってもらえた。
 今の美容院で働いている人たちは、私が10歳以上も年上だからか「多いでしょ?」と言っても「いやいや、多い方が良いんですよ」とか言って、決して否定的に言わない。優しい年下の方たちの心遣いである。でも、一時髪の毛に張りがなくなり、心配して「最近、私の髪の毛の量、減りました?」と私が聞くと、「いいえ、そんなことはないです!」と即、断言された。そして、うふふんと鼻で笑われた。……やっぱり多いと思ってるんだ。
 ところが、私を上回るかもという友達とついに出会った。今も仲良くしているが、息子が同じ歳で知り合った母親友達である。Fさんとしましょう。彼女が「髪の毛の量が多くて」と言ったので「いやいやそんな、私の方が多いって」と、今までの記憶と経験を、頭の中で総動員して全力で対抗した。しかしFさんは食い下がった。「でもいつもきれいにしているじゃない?」と。「またまたあ。そりゃ美容院で随分減らしてもらってるんだよ。」と言うと「私と会う時にいつも?」と言う。言葉に詰まった。毎回そんな偶然はないだろうと思いつつ「じゃあ、会う前に偶然美容院に行っているんじゃない?」と苦しい反論。二人とも引き下がらない。それでもFさんは言った。
 「悪いけど、髪の毛の量の多さでは、負ける気がしない。」
 うぬぬ。そこまで言うか……。
 私たちは笑いつつ、お互い譲らず、その話は終わった。
 しかし、決定的なことがあった。
 別の友達に、そのFさんの話をした時「ええと。どんな人だっけ。みんなの顔、ちゃんと覚えていないからわからない。」と言う。色々説明してみたが「うーん。そうかあ。まあいいや。その人のことね。」と流された。しかし、しばらくしてからその友達に会った時「Fさんて、どんな人だったか思い出したよ!あの髪の毛の多い人ね!」と言われた。
 「……!!」
 軽い敗北感であった。私の前で「あの髪の毛の多い人」と言われたということは、私より多いと認識しての発言なのだろう。この話は、まだFさんにはしていない。きっと得意そうな表情をするに違いない。
 そして、私たちの年齢になると、もはや髪の毛の多いことより白くなってきたとかはりがないとか抜け毛が多いとかそういった方に憂いを感じ始めている。