『大統領の執事の涙』を観ました。
 アメリカの大統領、アイゼンハワーからレーガンまでの執事を務めた、実在の黒人をモデルにした話である。事実とは幾らか異なっているようだが、黒人社会というものを、改めて考えた。
 アメリカに住んでいた時に、自分もアジア人であるということや日本人であるということで差別を受けたことがあり、黒人差別も直接目にすることもあった。それなりに実感としては持っていたが、歴史はよくわかっていなかった。
 中高時代に学校で、南アフリカの黒人差別、迫害、虐殺について描かれた『遠い夜明け』という映画を観て、ショックを受けた。
 大学時代には、先生が『紫のふるえ』(アリス・ウオーカー著)という本を読みなさいと言った。「読みなさい」が山のように多かった先生は「時間ないなら、その本は『カラーパープル』という映画になっているから、それを観るだけでも構わない」と、逃げ道を作ってくれたので、私はその言葉に甘んじて映画を観た。黒人、中でも女性に対する差別についての内容であった。
 夫と『Bring In `Da Noise, Bring In `Da Funk』というミュージカルを観に行って、そのショーの迫力に心を動かされたが、内容が黒人のアメリカでの歴史で、英語が難しく、何となく内容がわかったという程度だった。それまでの黒人の、アメリカでの歴史がいかに重たいものであるかは、少しの知識しかないまま。
 世界に差別ははびこっていて、身近にだってあるし、日本だって、外国に対してだけでなく、国内の人間に対してさえ、どこの地域も保守的で、疎外したがるところがある。一人がこうだと、その国、そこの地域の人は皆、そうだ、という考えはどうにかならないものか。確かに傾向はあるが、一人一人つきあうと、それぞれの個性はあるものだ。
 差別の歴史は深すぎて重すぎて、細かすぎて、そして広すぎて、私程度の知識では簡単に語れない。本格的に調べるのも大変なことだろう。そこで観た今回の映画。
これは、自分が子供を持ち、やっと少しは「大人」になってから初めて観た、黒人の歴史に関する映画だと思う。
 何となくうっすら知ってはいたけど、でもわかっていなかったこと、が山のようにあった。たかだか映画一本の中だけでも、私は知らないことだらけということに気づき、やはりたくさんのショックを受けた。
 主人公がお父さんを亡くした場面は、本当に胸が痛み、悲しみを覚えたが、同時に『シンドラーのリスト』も思い出すような理屈ではない残酷な場面であり、恐怖心も強く持った。家族や周りの人は、ひどく悲しく、辛く、恐怖を感じ、厳しい思いを抱えるのに、一方で、人ってこうも命を軽視できるんだという場面を、映像で観ることで、強く心に訴えかけてくるものがある。映像の力はやはりすごい。