初めて甲子園球場に、阪神タイガースの応援に行ったのは父と。一塁側内野席。どんな服着て行ったかもよく覚えているくらい、記憶が鮮明に残っている。大きな声で応援するのは外野席で、内野席は比較的おとなしいのだが、隣に座ったおっちゃんが、大声で応援する人であった。私が球場観戦初心者だとすぐに悟り、おっちゃんは、各選手の応援歌の歌詞を書いた紙をくれた。そして「かっとばせー!○○!」と周りに構わず大きな声を出していた。おっちゃんは、決して私に対して押しつけがましかったりからんできたりはせず、態度は紳士的であったが、ただ応援する声が、初心者には恥ずかしいくらい大きかった。おっちゃんは、阪神タイガースを愛してやまないのが伝わってきた。
 その日のピッチャーは伊藤で、出足はイマイチであった。点を取られそうで危なっかしくヒヤヒヤしていたが、隣のおっちゃんは、静かな時も大きな声で「伊藤、ガンバレーー!!」などと、自分の大声を恥じるどころか、伊藤に届くように発していた。多分、よく聞こえていたと思う。要所要所で声をかけ続け、おっちゃんのおかげだけではないだろうが、伊藤の調子は、尻上がりに良くなっていった。そして、5対1で、阪神が勝った。バンザーイ!!あの1試合目で高揚感とか、応援する楽しさ、ナマで野球を観た時の、選手の動きなどで、球場に行く面白さを知ってしまった。
 そのうち、何回も甲子園球場に足を運ぶようになった。ナイター、春の高校野球夏の高校野球。友達と。従妹と。父か祖父が付き添って。お年頃の私でも、阪神の応援のためなら、父とも、阪神タイガースの熱狂的なファンである祖父とも甲子園球場に出かけた。
 球場に応援しに行く時は、早めにチケットを購入したくて、試合の何時間か前から売り場に並ぶこともあった。そこで、色々な選手を見ることもあったし、開場してから試合が始まるまでの、選手たちの練習を見るのも楽しみであった。一度、外野から田尾選手に周りの人たちが声をかけていたら、ボールを投げ込んでくれたことがある。
 野球を球場で観る面白さは、選手たちの動きである。皆で一体となって応援する楽しさもあるのだが、ゲームそのものを楽しめるのが、球場で観る面白さである。ボールの速さ。球威や打った時のボールの速さや動き。そして、ピッチャーが投げる瞬間に、守っている側の選手のあらゆる動きが見えることである。ランナーがいたなら、そのランナーが走った瞬間もわかる。これはテレビでは観ることができない。どうしてもボールが動いている方にクローズアップされるので、仕方がない。球場全体を写していてはテレビとして画面が退屈なのだ。でも、実際にその場にいると、選手たちがあちこちと動き回っている。「あっ走った!」とか、何塁手があっちに回ったとか。ボールが高く上がった時に外野手を見ると大体飛距離もわかる。そのうち、ボールの勢いや描く弧で外野手を見るようになる。全体を見渡せる。
 また球場に行きたい。できれば広い球場で。通路から客席に入っていく瞬間の球場全体の広がりや、何階席もあると、上から見おろす空間。圧倒的な広さや大きさ、皆の熱気にいちいち胸がいっぱいになり、すごくワクワクする。