この映画では、やはり歌を歌うシーンについて書いておきたい。
 主役である長女エルサを松たか子。彼女の曲を以前聴いたことがあるが、音程をきちんと取れる人なのだなという印象程度だった。しかし、今回聴いてみると、日本人特有の声の細い感じがあるが、発声やブレスの上手さだけでなく、明るく、そして魂のこもったヴォーカルが胸を打った。迫力もあるのに、澄んだ声が若々しくて、エルサとして魅力的。彼女については色々言われているようだが、ここでの歌はとにかく良かった。
 そして、次女役を神田沙也加。アイドル歌手松田聖子と俳優神田正輝の娘である。松田聖子は、私が小学生の頃、ぶりっ子アイドルとして君臨していた。歌い方にも特有のクセがあり、何をやってもどこまでが本心なのかわからない。そんなキャラクターとは別に、彼女はどんな曲でも独特の雰囲気でその歌を魅力的に聴かせ、ヒットさせた。色々とスキャンダルもあったが、閉じこもることなく、変わらずにいる。もしかして彼女は、ものすごく心が強い人なんじゃないだろうか。そして神田沙也加がテレビに出てきた。彼女は伸び伸び育っていて好感が持てた。でも、歌を歌っても成功するとは思わなかった。母親が歌手として偉大過ぎるからである。ところが心配は無用であった。母親をほうふつさせる声と、その母親を超えていると言って良い歌唱力。声がまっすぐで、表現力が抜群。
 この映画の中で、「ありのままで」と同じくらい好きな曲は、二人の掛け合い「生まれて初めて リプライズ」という曲。アナがエルサを迎えに行って説得しようとする場面。説得しようと焦るアナの気持ちが表れ、二人の魂の叫びが大迫力となって聴こえてくる。
 その掛け合いのシーンで、エルサが、「これで自由になり、好きにできる」と思っていたことがそれだけではいけないと気付く。個性を出すという時の自己主張との難しいバランス。皆が成長するにつれ、必ず直面する葛藤である。自分の中の抑圧されていた個性を解放することと、好きなだけ自己主張をしてルールなしに好きに過ごすことは違う。それでは社会の中で暮らしていけないのだが、その気持ちを通過することは成長する上でとても大事な気付きである。その時に大きな衝撃を受けて挫折するエルサの気持ちが、歌で見事に表現されている。
 ちなみに、英語版の歌詞は、エルサの抑圧された部分がもっと前面に出ていて、言葉としては聴きごたえがある。私は自由でいてはならない、感情を抑えなければいけない、良い子にしていないといけない、という抑圧感と、辛さや絶望、そして何より恐怖心が出ていた。恐怖心がエルサの気持ちを支配していたと言って良いくらい。自分の中の個性、それによっての孤独感や寂しさ、抑えなければいけない時には激しい気持ち、が起こることが自分にとっては恐ろしく、それが冷たさや悲しみや怒りなどの感情を生むこと。
 この映画、内容が姉妹モノであるにしても、雪だるまのオラフ、トナカイのスヴェン、アナの相手役クリストフなどの個性で、男の子も楽しめるし、歌が前評判通り良いので大人も楽しめる。先に日本語版を観るのがおススメです。日本語版の二人の歌声の方が若々しくて私は好みである。そして改めて英語版を観て、言葉のニュアンスに、心を動かされる。両方観ると、楽しさ倍増なのだ。