ついこの前まで、息子は、夫と一つの布団で寝て、夫が出張中は私に甘えていた。昨年までは寒いと、すぐ人の布団にもぐりこんできていた。
 赤ん坊の頃は、一緒に寝ると、押しつぶしそうで、なかなか寝た心地がしなかったが、段々慣れていき、慣れと、子供が大きくなってきたせいもあって、私も息子をぎゅうぎゅう押したりしても大丈夫になったり、息子の足が夜中にドスンと乗ってきても、蹴りやパンチをくらっても、「いたっ!!」ってなるくらいで、またすぐ寝れるようになった。そうやって、息子が同じ布団になっても、すっかり平気になった。
 でも、夫が出張中のある日、息子は「一人で寝てみる」と言って、一人で部屋に入り、すぐ寝ちゃった。
 最初の二日間は、いつも以上に早起きしてしまっていたが、ベッドの状態を、いつものベッドに近い感じに再現してみたら、慣れてきたおかげもあるのか、三日目以降は、よく眠れるみたいで、ゆっくり起きてきた。
 そして、夫が戻ってきてからも、そのまま自分の部屋で寝ている。
 「寂しかったら、そっちの部屋に行って良い?」と何度も聞くので、その度に「良いよ、お父さんとお母さんの間においで」と言ってはいるが、そういうことは滅多にない。
 いつも、同じ部屋で寝て、「かわいいかわいい寝顔も、いつまで見れるのかな、今まで過ごしてきた時間より短い時間しか見れないな」と、ここ数年思っていたが、まあ、あんなこと言って泣いていたし、中学生になるくらいまでは見ることができると思っていた。それが、こんなに早くそのタイミングがやってくるなんて。お風呂の時と同じく、突然。
 私が小学生で、一人で寝始めてから、寝入っている合間に、父が、よく布団をかけ直しに来てくれていた。ぼんやりとした意識の中、暑かろうが寒かろうが、掛け直してくれる気持ちが嬉しく、甘えに似た気持ちを抱いていたのを覚えている。私も、しばらくは、寝ている部屋を毎晩のぞき、布団をかけ直すことにした。と言うより、布団、掛け直しついでに、かわいいかわいい寝顔や寝相を見に行くのだ。父もそうだったのだろうか。ハハハ。
 そんなわけで、11年、ほぼ毎日一緒に寝ていたものだから、息子がいない寝室に寝るというのは、なかなか慣れない気がした。
 しかし、子供は頑張ってくれているから、私も慣れなくちゃーと思ってから数週間したある日、息子が「今日は、1泊2日で、そちらの寝室で寝させて下さい。」と仰々しく言ってきた。笑いながら良いよ、と言いつつ、内心喜んだのだが、これが思った以上に寝づらかった。あんなに何年もかけて平気になったパンチやキックが痛くて、狭く感じるために肩や首や背中がこって、寝た気がしなかった。ああもう一人で寝るのがラクになってしまったんだ。たった数週間のことなのに、身体が一人で寝る方に慣れてしまったんだ。それもそれで何だかさびしい。そして、どうやらお互い様だったらしく、翌日、息子は自分の部屋で寝た。そうやって、時々一緒に寝る日もあるのだが、その翌日は決まって、自分の部屋で寝ている。ちょっと寝づらいみたいで。
 息子の心はどんどん成長している。