でも、なかなか慣れないことがあった。
 それは、息子がいない部屋で寝るということであった。寂しかったのだ。赤ちゃんか。
 夫が出張の時も、私はいまだに寂しくて仕方がない。とても寂しい。何故この気持ちを克服できないのかわからない。どうしたら寂しくなくなるのかもわからない。忙しくしていても、夜寝る前とか、朝起きてしばらくとか、夫とよく喋る時間帯に、夫がいないというのは寂しいものである。
 夫が出張中と言えば、最近まで、息子と一度は喧嘩していた。息子と二人きりであることに、お互いの息が詰まるのか、イライラしてきて、息子のからみっぷりにも、逃げ場や吐き出す場所がなくて、怒ってしまう。息子がギャーギャー泣いたり機嫌が悪くなったりして、後で仲直り、というのを繰り返していた。できるだけ、心穏やかにと思っていても、どうしても一度は喧嘩になってしまっていた。それが、昨年頃から、気が付くと、それぞれがそれぞれの時間を持てるようになって、穏やかに過ごせるようになった。夫がいないという寂しさはあっても、息が詰まるような感じはなくなり、私も息子も、喧嘩しなくなった。
 ただ、寂しさから、2〜3泊が限界。4泊とか5泊の出張だと、耐えられない、誰か遊びに来て、といった感じで、友達を呼んだり、家に泊まってもらったりして、一緒に夜や朝に、人と喋ることで気持ちを紛らせたりしていた。
 昨年暮れ、5泊の長い出張で、息子と「お父さんいないと寂しい」とか言っていたけど、前半は、二人とも風邪をひいてしまい、自分の体を健康に戻すことに気持ちを砕いて、寂しいとか感じるどころではなかった。
 で、息子が復活して学校に行くと、図工の工作作品で、木の板に「部屋に入る時、一声かけてください」と書いてある物を持って帰ってきた。「声」の字が間違っていたけど。
 それを部屋の横にかけて「部屋にいる時にはこっちを表にしておくんダ〜」と、ウキウキして、自分から部屋に入った。
 今まで、私たち夫婦の寝室を我が物顔でゴロゴロしていたり、本や漫画を持ち込んで読んだりしていたのに。そういえば、ちょっと前から「僕は、もっと自分の部屋を活用したい」と言っていたのだが、工作で作っていた頃だったんだろう。「いずれ、自分の部屋にばっかりいるようになるから、その時期が来るまでは好きにしてたら良いよ」と話していたんだけど、まさか、こんなに早くそういう時期が来るとは。
 「僕、そのうち、自分一人で眠れるようになるのかなあ。」と、確か昨年は不安がっていた。「中学生くらいになったら、きっと一人で寝たがるよ。さまぁ〜ず三村の上の女の子も、中学生になって、一人で寝るようにさせたって言ってたじゃない?それまでは一緒でも良いよ。」と言っていた。「高校生になっても、一人で寝れなかったらどうしよう。」「ずっとお父さんやお母さんと寝たいと思い続けたらどうしよう。」と息子は泣き出した。笑いつつ、少々困惑気味の私であったが、それでも、さすがに、中学生になったら一人で寝てもらうよと思っていた。夫も、「諸々の事情で、そのうち一人で寝るよ」と言い、夫婦して余裕だとのんびり構え、笑っていた。