しばらく話していて、ふと、息子が桃太郎の話をしていることに気付いた。ギョッとして息子の方を見ると、話は中盤である。何でこの子、桃太郎の話をしているの?と思ったが、先生夫妻も、「おお、どうしたどうした」って感じで聞いてくれた。三人の大人が「忍」という文字が顔に書かれたような表情で、息子の桃太郎の話をずっと聞いた。そしてクライマックス。「そして、鬼退治に行きま・し・たっ!」まで来た時。息子が「あれっ。どうして桃太郎って鬼退治に行ったんだっけ。」
 「……。えっ?」
 そんなところに疑問?このタイミング?そんなクライマックスで?やっとその話が終わろうと皆安心しようとしたところなのに。
 何か悪いことしたからじゃないの?お宝でも盗んだんじゃないの?さあ……忘れちゃったよ。「だって、何か悪いことしたから、退治されたんでしょう?」
 「……。」
 三人とも押し黙った。「わかんない。なんだっけね。」
 さらには、先生夫妻が、「関西に住んでいると、福島県の場所があやふやになる」とか「栃木とか群馬とかね」とか言ったものだから、さあ大変。息子が福島県の南から一つ一つ言い出した。岐阜辺りまで行った時に「もういいよ。わかったから。それ、いつまで続くの?」と言うと、先生は「おお、良いよ、最後まで聞きたいね〜。」なんて言う。息子も「僕も最後まで言いたい。」と調子に乗って言う。やだもー長いし、私、話したいこと、まだあるのにぃ、と思って、また「忍」という表情で、三人が耳を傾けた。息子は忠実に場所を再現し過ぎて、座っている場所から離れないようにするため、体を回転させ始めた。西日本にさしかかった辺りで、右隣に座っていた私に対しては、背を向け始めていた。そして、向かい側に座っていらした先生夫妻から見て、完全に右、いや、何ならやや後ろ向きになった辺りで「鹿児島、沖縄!!」と締めくくった。
 「……。」
 私はまた押し黙った。やっと終わった。
 先生は「おお、すごいなー」と言ってくれた。さすが三人の男子を育てた親である。しかも、ああいう先生だし、このような知的な奥様だから、しっかり相手をして下さる。
 しかし。
 私は「忍」である。だって、息子とは毎日のように、こんな会話は交わされているし、私は先生と喋りたーい!!
 とりあえず、最低限のことは聞けたし、話せた。ただ、先生が「大学卒業してからどうしてたの?」と聞いてくださった時に「それから、ちょっと働いて…」と、働くいきさつも話したかったのに、息子が何か言い始めてしまい、「忍」の顔で、また私たち大人三人は息子の話を聞いた。さらに「ここの土地は慣れた?」とか「どうしてアメリカ行ったの?」「アメリカに行って何したの?」だったかの質問の時も、こちらの話、札幌に住んだ時の話を聞こうとしてくださった時も、息子に阻まれた。
 とても消化不良(笑)。