息子が5年生になっての運動会は、例年とは違った。
 夫が出張だったのだ。
 毎年、ピクニック気分で参加していた私は、楽しみの大半を奪われるようで、非常に落胆した。「あの子早いね。」「そういえばさあ。」とか、ちょっとした話をしようにも相手がいない。独り言もうっかり言えない。ビデオ回しながら笑ったりできない。あーあ。
 と思ったのはもちろん、私だけではなく、息子もそうである。
 息子は、走りが速いわけでもなく、特に活躍する場もないのに、運動会を楽しみにしている。何故なら「鼓笛」があるからだ。鼓笛をする時、ドラムをやっている息子にとっては、ほんの少し得意分野として気分よく活躍できる場面なのだ。
 「今年は、行進が凝っているんだよ。」とのこと。どうやら、マーチングの動きが、少しややこしいらしく、それが昨年より凝っていてよく練習しているから観てほしいらしい。
 又、5年生になると、運動会のための色々な係になるらしく、息子は、競技に使う物の準備や片づけの係になったらしい。他にも記録する係や、低学年の子たちをトイレに連れて行く係、競技で順位がつくと、その子たちを指定の場所に連れて行く係など、色々あるらしい。係についての説明があった日は、色々大変なんだ、と興奮気味に話していた。
 で、当日、特に競技で活躍するシーンもなかった息子は、「チャンス走」と言って、色々なハンデをその場その場でこなしていく競技で、3位になれただけで大喜び。お弁当の時間も、鼓笛の準備があるからと、まだ時間もあるのに早々からいなくなってしまった。
 担当していた準備やら片づけやらに関してだが、これがしょっちゅう駆り出され、忙しそうであった。でも、子供同士、道具の取り合いみたいになって、遠慮がちな息子は、そこに手を貸しかけては、ひったくられて、手持無沙汰な場面になることもあり、ユラユラ右往左往していることも多かった。又、先生に言われた方に荷物を持って行くと、別の先生が「違う、こっち」と言わんばかりにひったくって、息子はまた手持無沙汰になったりした。あっちで呼ばれ走っていくと、何もなくこっちへ走り、そして結局何もなく席に戻され、などと、息子はただただ走り回っていることが多くて「ああいうことってあるよな、大変だな。息子のことだから、ストレス抱えるんじゃないかな。」と心配してしまった。
 帰宅後、「準備や片づけも見ていたよ。活躍していたね、大変じゃなかった?」と聞いたら「大変だったよ!物を運んだり、持って帰ってきたり。不確かな情報に振り回されたり。」
 あはは!そうかそうか、そうだよな、そういう時って「不確かな情報に振り回される」んだよな。息子のあまりにも客観的な意見と言葉遣いに、息子の成長を存分に感じて、感慨深くなってしまった。
 ちなみに私のことについていえば。例年は寒くてダウンジャケットが必要な日もあるほどなのに、今年は暑さに耐えるのが辛く、夫にツイッターのように、暑さと息子のことについてメールでつぶやきまくり、一人の母親友達が気遣って頻繁に話しかけてきてくれたお陰で、寂しい思いはせずに済んだ。でも、ピクニック気分のような夫婦を見かけるとうらやましくなった。来年は、いてほしい、ダンナ。