映画『ものすごくうるさくて ありえないほど近い』で、母と子の関係がまた興味深かった。
 父親は、息子にとって一番の親友であったと思えるほどだったけれど、母親は、おそらく私もそうであるように、息子を抱えきれないと思っているのだろう。独特の距離感があった。それを演じて表現できることに、このサンドラ・ブロックの演技力の評価を、自分の中で変えないわけにはいかなかった。
 父親を亡くしてから、二人の距離は縮まらない。母は息子を扱いかねている。でも、やっぱり母親なのだ。息子のために一生懸命になる。自分なりのやり方でしかできないけれど。そこが非常にリアルで真に迫っていた。とても共感できた。息子に「どうせお母さんにはそういう細胞とかのこと、わからないだろう、バカ!」みたいなこと言われてしまうところまで。
 でも、まだ小学生の息子に対して、私ならここで抱きしめる、ここで「今日は一緒に寝ようよ」と誘う、そういったことがその母親役にはなく、そこがまたもどかしかった。
 他に、トムハンクス演じる父親と、さらにその父親。息子が最後の方に真実を打ち明ける男性とその父親。あらゆる父親と息子の関係、事情がからみあって、興味深かった。その辺は映画を実際観てのお楽しみ。
 
 映画を観た帰り、夫とそういった親子関係のことで、話に花が咲いた。あのシーンが胸を打った。あのシーンは涙が出た。色々話した。
 そういえば、最初のシーンは息を吞んだ。そう言ってから、映画で何度か映った崩落のシーンがよみがえってきた。
 実は、私の今回の気持ちはそこからだった。
 観終わった直後も、しばらくは夫婦関係、親子関係、家族関係のことで頭がいっぱいだったはずなのに、目にやきついているあのシーン。
 10年ほど前に目にしてから、できるだけ見ないように努力してきたあのシーンが、映画で大画面いっぱいに、何度も映った。
 私は自分の受けていたショックに初めて気づいた。
 私のショックは、思っていた以上だったのだ。
 ビルが崩落するのを観ながら「怖い!!」と恐怖に打ち震えていたこと。
 当時は、ニュージャージーに住んで、時にはニューヨークに仕事に出る私の親友が心配でならなかった。早く日本に帰っておいでよと言いたかった。でも、彼女の志を考えると、言わない方が良いと思ったし、帰ってくる飛行機でさえ危険ではないかと案じた。ただ彼女の憂鬱な気持ちを、メールで読んでは、ただ気をもむばかりであった。
 そして、怖いね、怖いね!テロは許せないねと、呪文のように唱えていた。
 実際、かかりつけの内科の女医さんにも私の気持ちを訴えていたらしく、後から「あの時のあなたは印象的だった」と言われたくらいであった。