先日、『ものすごくうるさくて ありえないほど近い』(incredibly loud and extremely close)を観た。
 映画のコマーシャルをやっている時から、夫と話題になった。2001年の、アメリカでの同時多発テロ事件が、映画の内容の始まりになっている。その時、仕事の話で、偶然ワールドトレードセンターにいたトムハンクス演ずる父親が犠牲になる。
 この映画は、政治色がなく、ある家族がその中の一人を失い、葛藤していく様子が描かれているが、その中で、色々な側面が表れる。
 奥さんとして、旦那さんをある日突然失うこと。子供がある日突然、お父さんを失うこと。子供が持っている発達障害の傾向。子供とおじいさんのコミュニケーション。子供と色々な大人との関わり。母と子のコミュニケーション。人の事件に対するトラウマと、あのテロ事件との距離感。あらゆる男性の、息子としての父親との関わり。
 心理学だの、人の心や脳に興味を持っているものだから、なおさら興味のある題材ばかりであった。トラウマとか親子関係、家族関係。
 映画のCMを観ると、その度に涙があふれてきた。夫と「絶対泣いちゃうよねぇ。」と言い合った。でも、観ようね。と、二人でどちらからともなく話していた。

 2001年のあの日。
 帰りの遅い夫を待ちながら、何となくテレビをつけてみた。
 ワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んだ瞬間が流れていた。それが、まさにその瞬間だったのか、1機目だったのか、2機目だったのか、ほんの少し前の録画映像なのか、なんだかよく覚えていないが、そのシーンが目に入ってきた時は「嫌なことを想定した映画だなあ、縁起でもないよなあ。」と思った。チャンネルを一旦変えてみた気がする。消したんだっけ。いや、消そうとしたんだっけ。いや……よく覚えていないのだが、その時に、実況のような声が、ずっと流れていたのではと、耳に残っている声に気付いた。
 何。これは。現実?
 数分、立ち尽くしていたと思う。ちょうど夫から電話があり、簡単に事情を説明した。夫は驚いて、とにかく帰ってくると話し電話を切った。
 訳がわからなかった。
 次々と飛行機があちこちにつっこんだというニュースが流れる。
 帰宅した夫と、二人、テレビの前に茫然と立ち尽くしていた。
 そして、崩れ落ちた。
 「ああっ!……なくなっちゃったよ。」
 あの瞬間、テレビやインターネットを通じて、世界中のすべての人が体験した惨事と思っている、と、亡くなったトムハンクス演じる男性、の奥さん役をやっていたサンドラ・ブロックがそんなようなことを話していたそうだ。