最初の頃に住んでいた私たちのアパートは残念ながら、梅雨のない気持ちの良い日々をあまり実感できなかった。
 私たちが住んでいたのは、アパートの一階であり、方角も悪かったし、今思えば「欠陥住宅」と言えるのかもしれない。住宅、なのかな。マンションのような鉄筋のアパートだったし、何て呼ぶのか知らないけど。
 とにかく、湿気満載の部屋だった。洗濯物を一日、部屋に干していても、まったくかわかない。当然匂ってくる。水を使う所の壁は、ことごとくカビが生え、押入れも冷たい。
 一度、押入れから、虫が何匹か、わらわらと出てきた時には、本当に泣きたくなった。
 そのため、普段の掃除とは別に、週に一回は大掃除をする羽目になった。アルコールを使い、あらゆる壁を拭く。クローゼットも結露していた。トイレにはすぐ水滴がつくし、カビ臭さとエタノールの匂いで、頭がクラクラするようだった。今思い返しただけでも、何だか無駄な労力に思える。そういう湿度やカビのことで、体調を崩していたのなら、下らないことに労力を費やしてしまったなあと思う。ただ、それで、日当たり悪く、湿度の高い部屋はいやだと、次のアパート探しの時に、強く主張できるようにはなったけどね。
 最初のアパートは、とにかくベランダもないし、足元まである大きな窓ばかりなので、布団も干せない。仕方なく、布団乾燥機を買い、それを使って、週に一回は布団を乾燥させていた。そうでないとすぐに冷たくなるのだ。乾燥機にかける度に布団が倍くらいのボリュームに膨れ上がる。そんなため、ベッドを買うことにした。
 すのこも買って、クローゼットの壁に敷き詰め、新聞紙も敷いた。当然湿気を吸い取るドライペットは必需品だ。
 靴箱もひどかった。ちょっと油断すると、すぐに靴にカビが生えてしまう。靴箱にも新聞紙を敷いた。それでもこまめにチェックしなければならない。
 今考えてみると、そりゃ月の半分も寝込んでしまうだろう。
 そのうち、「カビの生える所に住んでいると、病気になる」という情報を知り、引越しすることを決意。
 しかしとにかく、私たちは、最初に契約が切れるまでの二年間、我慢して住んだのだ。
 当時は友達もいなかったし、自分たちのアパートだけが、そんな風だとはわからなかったのもある。しかし、時々壁裏や床下の湿気があまりにひどくて、深夜に火災報知機が間違って鳴り続け、消防車が来たことが何度かあった。そして友達ができて話を聞いてみると、やはりそのアパートが欠陥であることや、日当たりの条件が悪すぎることが段々とわかってきたのだ。
 それまでの二年間、慣れない気候と、ひどいアパートとで、私の健康が保てなかったのは、当然と言えるのかもしれない。