さて、そんな風に、児童文学を勉強した私は、それなりに知識もあり、絵本を観る目はあると自負している。さらに、幼い頃に読んだ本も多くあって、子供が成長するにつれて、自分が小学校低学年に読んだ本を買い与えたくなっていった。しかし、自分の子供は男の子だから、好みも違うかもしれないし、私の好みの本と、息子の好みの本はそもそも違う。私の方が女の子だったからか、多くのストーリーを読み込んでいたので、「面白いよ」と買い与えても、息子が面白がってくれるかどうかは、毎度自信がない。
 夫は、自分が楽しい、好きだと思った物を気軽に選んで与える。好みや感性が似ているからか、息子はほとんどの確率で、夫が買ってきた物を気に入って何度も繰り返し読む。
 低学年の頃と言えば、私のお気に入りは、『長くつ下のピッピ』『いやいやえん』『森おばけ』『ももいろのきりん』『大きな一年生と小さな二年生』『エルマーのぼうけん』などであり、中でも『もりのへなそうる』は、幼い私にとって、「絶品で、大きくなっても長い間手放せなかった」という印象がある。
 長い話や新しい話に関して、息子の好みは標準的だと思うが、私は本が好きな女の子だったので、息子のペースは私にとっては奥手で、ようやく『がまくんとかえるくん』や『かいけつゾロリ』シリーズが気に入っている。でも、ともかく私が手元に置いておきたいのもあり、『もりのへなそうる』を(自分のためにも)買い与えた。
 そして、息子に少しずつ読んだ。息子は大笑いしながら聞き、読む側にもなってみたりしながらどんどんページが進み、どういう展開になるのかと思いながら……読み終わった。
 ……あれ?……おしまい?
 母は「アナタは、何でもないお話が好きだったわよね。」と、私に言ったことがある。こういうことなのか?いやでも、『ガマくんとかえるくん』シリーズが好きだったという話をした時に、母はそう言った。しかし、『ガマくんとかえるくん』シリーズは、ガマくんとかえるくんの友情のような、親子関係のようなものを感じさせられて、毎回温かい気分になる。『もりのへなそうる』は、小学生が読む程度の文字数と絵の少なさなのに……何も感じない。
 誰か、何故これが面白いのか教えてくれ!!と両手を口にそえて大声で問いかけたいくらい、今の私にはわからない。何故私はこれを、長い間手元に置いておくほど好きだったのだ?全然覚えていない。どこがそんなに好きだったのか教えてくれー過去の私〜!
 すると夫は「ナンセンスだからじゃないの?子供はそういうのが大好きだよ。」と言った。何のオチもない、感動的な展開もない、ストーリーも特にない、このナンセンスさ。言葉遊びみたいなものや、子供のワクワク感だけが伝わってくる。「子供は、ちょっとした大人の説教や押しつけがましさを、敏感に感じ取るからこそ、ナンセンスが好きなんだよ。」と。
 息子は、言葉が面白いと真似をしたり、夫にわざわざ読んで聞かせたりしている。読みながら、一人でひっくり返って笑っているらしい。ウーン。児童文学を勉強した私だが、よくわからない。とにかくそれだけ、子供にとって魅力のある『もりのへなそうる』なのね。児童文学として、何か分析したい気はするが、しない方が楽しい気がしています。