奥田民生のニューアルバム、『OTRL』を聴き、「おや」と感じた夫が演奏者を調べると、すべての楽器を奥田民生が演奏し、歌っていることがわかった。そして、その一曲一曲をレコーディングする段階で、客前でライヴとして見せるといったことをした。一か所のライブ会場にて、一曲をレコーディング、といったやり方で、観に行った人は、レコーディングのために聴いた曲が、終わった後も、しばらく頭の中を渦巻くことになったらしい(笑)。
 客前で、例えばドラムを一通りたたき、パソコンにその音を取り入れ、ベースを演奏し、先ほどのドラムの音と重ねる。その重ねた音にさらにギターを入れ、ヴォーカルを最後に重ねる。途中に、タンバリンやマラカスなど入れたりするのだが、せっせと一人でマイクの前で演奏する。演奏の合間にブツブツ客に説明したり、話したりしながら、進行する。
 こんなことするんだ、こんな風にするんだ、と最初は驚いていたが、「wii musicで、一つ一つの楽器を演奏して、その音を重ねていって一曲仕上げるコーナーがあるでしょ、ミツがよくそうやって曲を仕上げている感じだよ。」と夫が説明するのを聞くと、なるほど、そんなに「えぇっっ?!」と、ひっくり返るほど驚くようなことでもないのかと納得できた。私も、息子に誘われて、時々その遊びに参加し、一曲仕上げることもある。でも、ちゃんと元の曲があって、ボタンを押せばリズムも表示され、その通りにリモコンを振ったり、ボタンを押したりすれば良いだけだ。一つ一つの曲を自分の頭でイメージして、どんな楽器にするか、どんな演奏にするか、歌にするかコーラスにするかを自分で考え、実際に自分で演奏し、歌っているのとは訳が違う!
 どの演奏も可愛らしくカッコ良かったが、やはり、ヴォーカルの瞬間にはかなわなかった。歌うちょっと前に「あ、あー!お〜!」などと、急に声を張って発声練習する姿も、普段は見られないので、良い場面だった。今までブツブツ喋っているのと突然違うトーンで声を発し、迫力で歌いだす。厚みを増すために、二度歌って重ねたり、コーラスを入れたりして、自分で一通り歌う。自分の声にかぶせてハモったりしている姿も迫力だ。お腹の底から出す自分の声と、やはりお腹の底から出す自分の声でハモっている姿に圧倒された。まったくブレない。自分の声に引きずられたりせず、当たり前にハモれるんですね。そして足や手や首でリズムを刻み、目を伏せて自分の声を聴いて確認している。自分の耳を頼りに作り、その音が正確で、出来上がる和音もカッコいい。今更、自分に酔いしれたところもない。やっぱり彼は歌っている姿が一番良い。
 曲の中の手拍子や、コーラスは、お客さんたちのものもあるということも後で知った。
 「観に行きたかったあ〜〜。」
 自分を「知らなくて良かったんだ」と納得させているそばから「いやあ、やっぱり行きたかった。」という気持ちがすぐに湧いて出てくる。しつこく言っている横で、夫がうなずいている。他の有名な方のブログで読ませていただいたが、作業が思いの外、時間がかかったため「解散!」と奥田民生が言って、観客は三々五々帰って行ったとのこと。まだステージ上に奥田民生がいるのにである。それだけ、皆、お腹一杯、満足できたということらしい。そんなに満足するまで観て、一緒の空間を分かち合えるなんて羨ましい!!