奥田民生の新しいアルバム『OTRL』が出ました。
 その前、数か月間、「ひとりカンタビレ」と名付けたツアーをしていた。それが、ただの「ツアー」ではないことをその時は知らなかった。その少し前に、「のだめカンタービレ」という、漫画を原作にしたドラマをやっていて、またその名前をもらってツアーのタイトルにしちゃって、パロディの好きな人だなーと笑っていた。まだ幼い子供がいて、田舎に移り住んでいるウチは、ライブに行くのは夢の夢なので、さらっと、ブックマークしておいた奥田民生のページのお知らせを読んで、CDとDVDの発売を楽しみにしていた。
 それがですね、CDを聴いていると、夫が「これさあ、コーラスの女の子誰だろうね??」「ドラムは沼澤なのか?誰?」「ベースは、小原礼??違うよな、誰だ?」と聞いてくる。夫は、ドラムの音やベースの音を聴いて、「誰々っぽい」と当てられることがあるし、奥田民生のヴォーカルの時のベースやドラムが大体誰かというのをわかっているにしても、代わることがあると、「おや?」と気付く。私は「言われてみればそうだねぇ。」とわかる気はするが、そんなに意識的に聴いていない。
 今回は、やたらに、「誰?」と聞いてくるので、おかしいなとは思っていたが、夫が帰宅後、CDのジャケットを見ながら「……。奥田民生、一人で何したの?」と言っている。私もよく調べていないし読んでいないので「なんか‘ひとりカンタビレ’とかって、一人でライブやってたみたいだけど、よく知らないよ。」くらいしか言えない。
 色々夫が調べた結果、ドラムもベースもギターも全部奥田民生がやっていることがわかった。「どうやら、ドラムをやって、その上からベース、って感じでどんどん音を重ねていったらしいよ。」「へぇ……。一人で?誰かが演奏したのを流してその上からヴォーカルをかぶせたんじゃなかったの?」まだピンとこない。いやいや、全部自分で演奏したのだ、最近のパソコン使ってなら合わせるのは難しいことではないよ、と夫に教わって、ようやく今回のライブの「ひとりカンタビレ」の意味がわかった。
 今回のライブは、皆の前で、いつものように何曲も歌うということではない。その、各曲、を作ってアルバムにする最終段階、つまりレコーディングの様子をステージ上で行い、客前で見せて、ライブにしてしまったというのだ。
 夫は「すごいぞ!」と興奮した。「ひとり股旅」と言って、広島球場で、アコースティックギター一本で、全曲歌いきった時も驚いたが、今回はもっと興奮した。
 私もすごいと思ったが、まず一番に浮かんだのは「あー!何で知らなかったんだー私!!」だった。そんな、彼の日常的な風景を目の前で見れるなんて、すごい体験じゃないか、観たかったじゃないか!あーなんて間抜けな私、面倒くさいからと、きちんと読んだり調べたりしなかった自分に頭を抱えた。あーバカバカ!!
 しかし。すぐに思い直した。
 いや、幼い一人っ子の子供がいて、急な用事で預けられるような親戚たちも遠い所に住み、田舎に移り住んだ私たちなんだから、どうせライブにすら行けないじゃないのよ、知っていたら、行きたくなって悶絶してしまいそうだから、知らなくて良かったんだ。