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「思い出の人たち」で、色々書いているが、幾つか「思い出の出来事」がある。
とりあえず、今書きたいことが一つ、ズバ抜けているので、その他のカテゴリーに書きくわえておきたい。
息子が、夏休みや冬休みなどの長い休みに入って、宿題をしている時に、度々思い出すことがある。
私たちが小学生の頃は、夏休みに、絵を描いたり、工作をしたりなどして、夏休み明けにその作品を持っていき、後ろに並べて皆が見れるようにしておくのが恒例だった。
確か五年生の頃だったか、クラスに、独特な雰囲気の男の子がいた。ちょっとズルイところがあったり、卑怯なところがあったりした彼は、あまり人気のある子ではなかった。でも、背も声も大きくて、独特な雰囲気のために、目立つと言えば目立つ子ではあった。
そんな彼が、夏休み明けに持ってきた作品は、手作り送風機のような物であった。
皆、せいぜい、手作り感満載の、紙粘土や木で作った物、五年生ともなれば女の子は縫物や、手先の器用な男の子は、ちょっとした仕掛けのある物などを作ってくるのだが、その子は、うちわを機械にくっつけて、スイッチを押せばうちわが上下するような、まあ当時の5年生にしては、コッたものを作ってきたのだ。
「おぉ、すげえ!」
クラスの男子が取り巻き、私もその輪のすぐ横にいて、感心して見ていた。
「これ、押すと、うちわが動くねんな?」「手で動かさなくてもうちわが動くんや、便利やんか!」
などと、輪がどよめいて、その動きを見ている。その輪の中で、普段は除け者気味な彼が少し得意そうに、嬉しそうにしていた。へぇ、彼にもそんなところがあるんだ、と感心して見ていたら、一人が「どれどれ」とうちわの前に顔を寄せている。どれどれと言いながら、いかにも「涼しかろう」という期待に満ちた感じで、目を細めて近づいている。
しかし「あれっ。あんまり風、こーへんなあ。」と言い、一瞬皆がシンとした。
その直後
「これって、自分であおぐ方が、風来るんちゃうか?」
……誰かが気付いてしまった。
「なーんや」「ほんまや」「うちわのスピードが遅いねんな」
口々に皆がそう言って、輪がさーっとバラけた。その中に残された彼は、何とも言えない、自分でも笑いたそうな顔をして、その作品を自分で眺め恥ずかしそうにしていた。
輪の外にいた私は、吹き出しそうになりながらも、一応その会話には加わっていなかったので、グッと笑いをかみころしてその場を離れたのだった。
いやいやでも、そんな物を考えて作った子は、他に誰一人いなかったではないか。彼の可愛いアイディアを、人の親となった今となっては、微笑ましく思える。