そして、1998年3月、私たちは札幌にやってきて住み始めたのだ。
 夫は、ニュージャージーで暮らした3年間以外は、北海道を離れて暮らしたことがなかったので、札幌が故郷であり、自分のテリトリーだ。
 札幌で暮らすことが決まる前から、夫は札幌の良い点をよく挙げていた。
 「温泉入りたいな〜、札幌からだとすぐ近くにあるんだよ。」
 「美味しい魚が食べたいな〜。」
 しかし、そんなこと言われてもピンとこない私は「フーン」と返事するだけ。何がそんなに良いものかいなーという程度だった。
 私の知っている日本は「宝塚周辺」だけだったのだ。
 同じ日本なのだから、住んでみたってそうも違うはずがないと勝手に思い込んでいた。
 そしてこの視野の狭い思い込みこそが、これを書く強い動機となれたのだ。
 よくテレビで見るでしょう?
 札幌の雪祭りや、大雪のニュース。札幌という言葉。北海道であるという知識もあるよね。広そう。雄大だろうな。住む人々は、伸び伸びしておおらかそうだな。
 しかし、そうそう具体的なイメージは浮かんでこないにちがいない。そして、浮かんできたイメージも偏っていたり、誤解があったりするに違いない。
 アメリカでもニュージャージーしか知らないように、私は日本と言えば、関西しか知らないのだ。知っていると言っても、せいぜい旅行で垣間見るくらいだ。
 旅行はそこの土地を垣間見ることができて素晴らしい体験には違いないが、そこで暮らすのと大違いであることも、色々な土地で住んだことある人間ならわかるだろう。
 言葉だけじゃないです。見た目の建物や人々の雰囲気だけじゃない。「ふーん。」じゃ済まないのだ。
 人々の暮らしというのが、いかにその土地に根付いた文化から来ているか、習慣が面白いことか、こんなにテレビやインターネットで情報が行き交う世の中でも、暮らしてみると、びっくりすることは山ほどあるのだ。