ここでは、以前6年間だけだが、暮らした札幌について、書いていきたい。6年暮らすと、まだ未知な部分は多いにしても、多少はそこでの暮らしについて紹介できるので、書きたいと常々思っていた。一番長い暮らしが兵庫県宝塚市である私にとって、比較的詳しく話せるのは、そこでの文化である。でも、幼少期の、人格形成、考え方の基盤が決まる大事な時期に、アメリカニュージャージーに住んでいたことで、どこが心の原点なのかと問われると、どこも断定できないあやふやな感じになってしまうのだ。
 そんな私が、北海道札幌市という街に住んだという経験は、とても面白いものであり、そこの文化をしみじみと知るチャンスとなった。その後、現在住んでいる街に引っ越してきたが、いまだに札幌育ちの夫と喋っていても「へぇ、札幌ってそうなんだ」と驚きの発見をすることは多々あるので、育ってきた人には、当然かなわないが、私が実感した札幌について、少しずつ書いていきたい。
 北海道というのは、私にとって憧れの土地であった。
 夫と知り合う前から「新婚旅行は北海道が良いなあ。」なんて言っていたくらいだ。
 何故「北海道が良いなあ。」なんて思っていたのか。
 今思えば、何も知らなかったからですね。
 ただ雰囲気でね……。
 まあ例えば、広そうだからとか、のどかそうだからとか。皆が思い浮かびそうなことくらいで。でも、北海道に憧れを感じている本州の人って多いはずですよね?
 一つだけ、ちょっと一般的ではないかもしれない理由があるとしたら「寒そうだから」というのもある。
 人間には、温かい土地を好む人がいるように、寒い土地を好む人がいる。はずだ。少なくとも私は。「寒い」という感覚が好きなのだ。体がキンと引き締まるような感覚や「うー寒い、辛い」と言いながら耐えるのが好きだ。……。変かな。変かも。
 でもその後、暖かい部屋に入って「あ〜あったか〜気持ち良い〜。」とほんのりするのも好きだ。北海道に住んで辛い思いも経験した後でも、やっぱりそう思う。今はまた中年になったので、寒さは辛く感じるのかもしれないけどねぇ。
 北海道では、「寒い」を強調した「しばれる」という言葉がある。北海道の方言には、なじめないものもあるのだが、この「しばれる」は、とてもしっくりくる瞬間がある。身がぎゅっと引き締まるような、体の芯までぐうーんと冷え切ってしまうような、毛穴まで凍ってしまうような、そんな寒さを感じる時に、「しばれるねぇ。」なんて言うらしい。いや、若者にとってはそんなに日常的に出てくる言葉じゃないんだけどね。
 そして、そんなしばれる日が、私は案外好きです。
 まあ詳しい話は少しずつ進めていくとして、とにかく、北海道に住む前の私は、すごく軽々しく憧れを感じていた。