息子は、幼稚園年長の頃から始めたスキーが大好きになった。
 滑ること自体が好きなようだが、実は滑る時につける「ゴーグル」も好きらしい。
 あまりにも好きなため、普段でも着けたがる時期があった。
 風邪をひいて、かかりつけの医者に行く時にも、ゴーグルを着けて行き、診察の時にはさすがに「先生に診てもらう時には取ったら?」と言っても「そうお?なんで?」と堂々たるものだ。確かに、まあゴーグル着けていたって、風邪の診察はできる。子供だし、さほど失礼には当たらないだろう。
 ここの先生は、我が子が、聴診器をくすぐったがるのを、とても楽しんでしまうような人だ。うひゃうひゃと身体をくねらせて笑う息子を見て、面白そうに笑うおじちゃん先生だ。看護士さんたちも「先生、わざとやってませんか?」と笑っている。そこの小児科に行くまでに、あちこち紆余曲折があって、我が子がいやがったり、我が子の泣きっぷりをいやがられたり、薬が症状に合わず、悪いけど素人ながら「ヤブ!」と心の中であちこちの先生に毒づきつつ、我が子のこの症状をどうしたら良くしてもらえるのか、悲壮な思いで駆け込んだのが、今の医者の所だった。薬がピタッと合っただけでなく、毎回喉の様子や聴診器からきこえてくる音を言葉で説明してくれて、赤ちゃんや子供が泣いていようが、動揺しない。病状に関しても、的確に説明してどんな薬が合うかと考えてくれる。
 札幌に住んでいた時も、近所に良い先生がいた。我が子のことも大好きでいてくれて(おそらく、子供が好きなのだと思う。同じくらいの赤ちゃんを持つ母親友達の多くは、その先生に好感を持っていた。)笑ったり泣いたりする子供の表情を楽しんでいた。
 患者の気持ちを理解しながら、病状をわかりやすく説明してくれて、それに合う薬を毎回考えてくれる先生、というのは、当たり前にいて良いはずで、実はなかなかいない。
 今住んでいる所に、そういう小児科の先生と出会えたことは、本当に良かったと思っている。息子は、だから安心して通えるのだ。
 医者のことで少し話が長くなってしまったが、息子のゴーグル好きについてね。
 そんなわけで、そうやってゴーグル着けて、その先生と会っても、まあ構わないのだ。
 案の定、先生は反応してくれた。「あれ?なんでゴーグル着けてるの?外、雪降ってるの?」と言って笑ってくれている。息子は得意顔で聴診器を当てられて、得意顔で去っていった。
 迷惑をかけたり、危険なこと、禁止というようなことではない限り、親が恥ずかしい思いをするってだけなら、少し我慢してつきあうようにしている。その頃、しばらくは、度々外に出る時に、ゴーグルを着けて出ていた。
 小学生に入ってからも、ゴーグルはやはり気に入っていて、スキーを復活させた冬、やはり嬉しくて仕方ないらしく、ある晩は、ゴーグルを着けたまま布団に入った。
 しばらくして寝入った様子を見に行くと、まだゴーグルを着けて、すーすー寝息をたてている。寝ている間中つけていると、ゴムで顔が痛くなってしまうだろうから、さすがにそっと取ってやったが、そんなにも好きなのかと、少し愛しく思った出来事だった。