『トラウマ返し』(小野修著 黎明書房)という本を読んだ。
 子供が思春期頃、或いは大人になってから、親に対し、「今まで親から受けてきた心の傷」について訴えてきた時の、親の振る舞い方。と言えばわかりやすいだろうか。
 『毒になる親』(スーザン・フォワード著 玉置悟訳 講談社+α文庫)や『アダルトチルドレンという物語』(信田さよ子著 文春文庫)などで、子供の、親に対する気持ちを読んだ。その親は健全であるか、自分の気持ちが不安定な時、自分と向き合ってみようということが主な内容なのだが、さて、自分と向き合ってその後どうすれば良いのかがわからない。
 そこで読んでみた『トラウマ返し』だった。
 親からしてみれば、精一杯を子供に尽くして頑張ってきたはずだ。でも子供は何らかの不平不満をもつ。それもまた当たり前のことだ。我が息子も、色々考えて頑張って接しているつもりでも、大人になってから色々言ってくることだろう。実際、ああ、こんなひどいこと言っちゃった。あんな言い方しちゃった。あんな風に傷つけた。ということは、山のようにある。山とありすぎて、一つ一つ覚えていないくらい。
 でも、子供は覚えているだろう。日々何の気なしに過ごしていても、ふと思い出すことが必ず出てくるだろう。そうした時、親として、どんな受け答えをするのが、子供を前向きにさせられるだろうか。
 「たくましく育ってほしいから、あえて荒々しく育てる」といったような育て方は、子供に本当の意味では通用しないようだ。結果、たくましくは育たないのではと多くの本を読んでの印象だ。正確に言えば「たくましいフリをする子供」になっていく。「たくましく育つ」のに、こうすれば良いという絶対の方法はないが、心が芯から丈夫になるには、しっかりと甘えさせ、親が共感をし、愛情を示すということがわかってきている。
 さて、そのトラウマを子供が返しにきた時の、親の応対については、細かなことはその通りにはできないにしろ、当たり前だが親は真摯に向き合うことが大切だ。一通り、親としての良い対処というのがあり、子供の立場からもそれは納得させられるものであった。私もそうしたいと思い、時々これを読み返さなければという気持ちになる。思春期に入った子供が、何日も何年も前のことを話し始め、夜も白々と明けるまで延々その気持ちを打ち明けるなんてことも多々あるらしい。『インナーチャイルド』(ジョン・ブラッドショー著 新里里春監訳 NHK出版)という本では、70歳や80歳で、親も亡くした人が子供時代を語り、自分をいやす集まりがあるとのこと。それは、執念深いことでもなければ、有り余るエネルギーでもなく、ただ自分の中に蓄積され、放たれることのなかった悲しみなのだ。
 もちろん、人は皆そのくらいの思いは抱えているのではないだろうか。しかし大事なのは、子供が親への気持ちを吐露した時の、それを受け止める親の気持ち、対応だ。その後、ショックのあまり、数日寝込む親もいるらしく、それは自分の中で受け入れて何とか消化しようと頑張る過程での作業として、あり得ることらしい。それだけ真剣に向き合ってもらえる子供は幸せだ。実際、そういった親の子供は、どんどん前向きになり、執着心が消え、元気一杯に明るくなっていくという。