夫との「似ている趣味嗜好」「違う好み」について書いているが、例えば、夫が将棋にハマった時期があった。今でも結構好きだと思うけど、ハマっていた頃は、数々の月刊誌、新聞を買い、毎週番組を欠かさず観て、対局が近くであれば、観に行っていた。インターネットで自ら対局を楽しむことも多く、パソコンのソフトを買って腕を上げていっていた。そして、対局を一緒に観に行き、色々な棋士の情報を得ていた私だが、何も一緒に「ハマって」いたわけではない。駒がどう動くかはさすがに覚えた。対局している棋士とは別に、客の集まる会場で、別の棋士が解説してくれたりして、その話も面白かった。でも、将棋をさすことができたわけではない。色々な戦法を覚えたわけでもない。ただ、熱中している夫と楽しい時間を過ごしたかったので、少しは話がわかりたかった。棋士自身のエピソードを話すのが一番楽しそうだったし、私もそういう話ならわかったので、棋士を覚え、色々なエピソードを楽しんだ。
 なので、将棋が詳しいわけでもないが、ただ少し知っていて、棋士の話は色々聞いた、というくらいだ。もちろんある程度知れば知ったで、かなり面白いと思える部分も強かったですよ。
 一度、棋士の対局するホテルで宿泊したことがある。
 温泉に入る時、男湯、女湯と分かれ、温泉から出た所で待ち合わせ。夫とさあ部屋に戻ろうとエレベーターの前に立っていると、ドアがチン!と開き、出てきたのは、息子の名前に一文字いただいた佐藤康光だった。夫も私も思わず絶句したのだが、彼は何だか独特の凄みを見せ、オーラを背負ってそのままエレベーターを出て温泉に向かった。
 意外と、声が出ないんですね。そっとしておこうとか、変に気を使う、ということもあるけど、単純に「わっ!びっくりした!」っていう。咄嗟に声にも動きにもつながらない。ただただエレベーター前で立ち尽くしてしまった二人……。
 そして部屋に戻ろうとしたら、棋士たちの宿泊する部屋ととても近いことを知って、また二人で興奮して、コソコソと部屋の前でお互いに「部屋に書いてある名前と並ぶ自分たち」の写真なんか撮ったり。
 色々な棋士のエピソードを知ると、愛着も湧きます。それで、ますますたくさんのエピソードを聞き、私の頭の中で整理されていった。棋士のエピソード満載の、棋士自身のエッセー本も少し読んだ。
 そこで、夫が特にファンである、谷川浩司と、佐藤康光の文字から、息子の名前を決めた。
 気がつけば、将棋の話に終始してしまいました(笑)。ごめんなさい。
 次回はもっと細切れに、色々な好みの違いについて、話を進めましょう。