2007年の春から一年間、私たち夫婦は、近所の町内会長をまかされた。
 ここは以前にも書いたことがあるが、特殊な環境で、外国人が多く、何か問題が起きると、それほど騒ぎ立てるようなことでなくても、皆が皆、「主張しないと自分の存在価値がない」と言わんばかりに、次々と自分の意見を訴えてくる。これがまたねぇ。一人ひとりの主張することはわかるが、どうしようもないようなことばかりで、夫には責任を負えないようなことが多かった。
 最初は、あまりに真面目で誠実な夫がそれに振り回されていた。ウチのムードは悪くなり、夫は機嫌の悪くなることが多く、子供はささいなことで、しょっちゅう怒られた。夫がふさぎこむことも多くなって、私も心理学を勉強しているものの、身についていないので、どうして良いかわからないというのが正直のところ。そして、本を読んで自分の気持ちを落ち着かせたものの、我慢することが多くなった。自分の感情を我慢し、息子にもおそらくそれが伝わり、約半年間、息子にも、知らず知らずのストレスが蓄積していったのだろう。
 それが、夫も段々対応の仕方を身につけ、大きな負担となる仕事も上手に回すようにしたり、私と夫とで何とかするようになったりすると、その半年が嘘のように、元に戻った。
 平凡な我が家になり、そりゃたまには怒ったりケンカしたりもあるが、基本的に楽しく優しい夫に戻った。私も安心した。
 その時に噴出したのが、息子のわがままであった。普段のちょっとしたわがままどころではなく、その矛盾や訴え方ときたら、ものすごかった。2歳の反抗期の頃のように激しく、でも言葉が喋れるために、こちらの感情を逆撫でする。
 私もせっかちなところがあって、もたもたしたり、グズグズ文句を言う息子を叱り、怒鳴り、たたみかけるように責めることがある。
 あまりにひどいわがままがおさまった頃、どもりと爪かみが始まった。
 ……という単純なものではないが、多少つながりがあると思われる。
 大の仲良しA君も転勤でいなくなり、新しいお友達をさらに作り始めた頃でもある。
 様々な葛藤を抱えていたのだろう。
 色々自分が、息子の気持ちを追い込み、ストレスを助長しすぎていたことを思って、身を切り裂かれるような、大袈裟と言われても、本当に深刻に落ち込んだ。
 心理学を勉強していたって、何の役に立つのか。インターネットのあらゆるページで、「親は自分を責めてはいけない」と書きつつ、「こんな対処だったら駄目だ」「子供は親にこんな風に扱われているからだ」「親はこんな風に子供にプレッシャーをかけているからだ」と親を責めている内容がほとんどで、やはり身を切られるような思いをした。
 それまで心理学の本を多く読みながら「親って責任重大だな」「そうか、あれも親の責任、これも親の責任か」「じゃあ、ああいう子供は、親のああいう対応がマズイのか」などと思っていたことが、自分に当てはまる。悲しくてならなかった。