息子が怖い夢を見たと言って、翌日の夜、寝ようとしなくなってしまった。
 知らないおじさんに追われて逃げていたのだが、立ち止まってしまったとのこと。
 心理学では、夢を、占いや予兆的なものとして考えるのではなく、その子供の心に起こっている出来事の分析として、必要な材料とすることがある。遊戯療法も同じく。カウンセリングをしながら、夢の話をしたり、その子供と遊んだりして、心理状態やその子の周りで起こっていることを探る。箱庭療法というのもあって、優れた心理療法士が見ると、実に巧みに分析を行い、その人の心の中を探ることができる。私にはそういうセンスがないので、いつも本を読んでは「ほお〜う!」と感心するばかりなのだが、ちょっとした知識で、何となく息子の気持ちは分析できる。あくまでも確信はなく、「何となく」なのだが。
 やはり、年長さんであるということ。その中で、年少、年中の時などとは明らかに違った幼稚園生活を送っていること。もうすぐ小学生に上がるので、その数日前に小学校へ健康診断などを受けに行ったこと。もうすぐ6歳になること。
 こういったことが、彼の心に明らかに「○△ができるようにならないと。」「お兄ちゃんにならないと。」「自分で色々できるようにならないと。」というプレッシャーを与えているようだ。あんなことも、こんなことも、一人でするのか。お父さんやお母さんは一緒じゃないのか。と、ここしばらくで、たくさんの驚きを実感していたことは私も知っている。
 そういった、成長しなければならないと思う自分の影、父親のように大人になっていくのだという自分から自分への圧力、などを恐れ、怯えていると思われる。「大人の男の人」は、警察官の帽子をかぶっていたと言う。つまり、強さの象徴であり、父親であり、成長しなければならないという自分の気持ちなのである。……かもしれない。……と、思われる(笑)。素人なので、あくまでも勘。専門家の皆さんには申し訳ない程度の分析です。
 ある程度知識のある夫も、瞬時に悟ったらしく、二人とも「そんな夢」と切り捨てることもなく、「怖くない、怖くない。」と怖さを打ち消すこともなく、何だその夢は!とうろたえることもなく、そういう点で心理学を勉強していたのは良かったと思うのだが、夫も私も「じゃあどうやって対処してやる?」が思い浮かばない。
 色々提案してみたが、息子は「わかってるよ。夢だってわかってるし、起きたらお父さんお母さんがいるのは知っているけど、夢を見たくないんだ。だから寝たくないんだ。見ないかもしれないのもわかってるけど、見るかもしれないでしょ。」とあくまでも誤魔化されない。トホホ。
 結局、夫の持つ‘ネンネタオル’的な物と、自分がそれまで必要なく、ただお父さんの真似をしたいからと持っていた‘ネンネタオル’の二つを両手でしっかりと握りしめ、私の顔をじっと見て頭や背中を撫でられながら寝入った。
 これは数日続いたが、少しずつ、顔を見ながら寝るという必要が減り、撫でてやる必要が減り、と元に戻っていった。
 今でも時々その話はする。おそらく、これからも、成長を続ける限り、似た夢は見ることだろう。段々一人で耐えていけるようになるさ。のんびり待ちましょう。