「僕、マラソン大会出たい。」と言い出した息子。
 本気なのだろうかと何度も確認をし、夫が申し込みを済ませてくれた。
 それから数回だけ、夫と息子は、1〜2キロを走ってみた。ダッシュしないで良い、最後まで走れることが大事だよ、そのためには少しずつで良いから前に進んで行くんだよ、と何度も言ったせいか、一人前に、ジョギングペースで走るようになった。
 そして、何ヶ月か後、申し込んだマラソン大会へ。夫の弟夫婦からもらい、大事にしている目覚まし時計を前夜に仕込む。しかし、興奮のせいか寝られず、フザけてハシャいでしまい、「明日しんどくなっちゃうよ!目をつぶっていなさい!」「そんなに寝ようとしないなら、明日は走れないよ!」「父さんや母さんは、5歳でも親と一緒に寝てなかったんだから!」とイライラする私に嫌味まで交えながら怒られ、泣きながら寝る羽目に。
 そして当日の朝、案の定「僕、眠すぎて走れないかもしれない〜」と泣きながら起きた。
 しかし、夫に「大丈夫だよ。父さんと一緒に走ろうよ」と励まされて機嫌を直し、準備を始めてくれた。
 外は結構な雨だった。夫にとっても、小雨とは言えないような雨の中を走るのは初めてのこと。二人ともの体調を心配したが、現地に着いてみると、雨だろうが、相当な人数が集まっていて、雨だとか何だとか文句も言わずに、ただこれから走る準備を行っていた。
 そしてグズグズからみやすい息子も、大してグズることもなく、ずぶ濡れになりながらも淡々と走りきった。周りのスピード、ラストスパートに翻弄されることなく、ずっと自分のペースを守り続け、ゴールしたら、昨年誕生日にもらった腕時計のスイッチを押して、タイムを確認。何と冷静な……。あまりのマイペースさ加減に、そうか、この子はこういう子なんだ、と改めて思い知って、見ている私も、良い意味であきらめがついたような気分。夫の話によると、途中給水所で立ち止まり、ゴクゴクと水を飲んでいったと言う。
 何もかもがマイペースな息子。
 でも、結果はそこそこに、丁度真ん中くらい。
 よく頑張ったね。健気な姿に、胸がいっぱいになって、息子が走り終えるのを見届けて、声をかけにいった。
 多分、今後は順位が気になったりするだろうし、早く走ろうとしたり、ペース配分を失敗したり、大きくなったら走らなくなったり、なんだろうけど、そのうちまた少し年齢を重ねてくると、きっと走る人になると思う。
 走ることには、様々なことが重ね合わせられる。人生、仕事、ストレス、人との距離感、あらゆる物事の考え方。でも何かのために走るのではなく、楽しいから走る。何かそんなことを感じられるようになったら、息子もまたジョギングにハマって、いつか年取ったお父さんと走ってくれるかな。
 夫も私もそんな淡い期待を抱いて、楽しみにしている。
 私はまだまだ足をいためたり、疲れやすかったりなので、休み休みでコンスタントには走れないが、やっと1キロ連続して走れるようになった。まだまだとてもゆっくりです。