白石正久さんの著書『発達とは矛盾をのりこえること』(全障研出版部)から、続きます。
 彼の本の至る所に、子供の成長に関するヒント、考え方のヒントが書いてある。その目線は、とても優しく、根気強く、子供の気持ち、そしてその親の気持ちに沿っている。
 一番最初に響いたのは、彼の大学の恩師から教えられた言葉だということだ。
 「発達研究を志すなら他人の目で子供を見たり解釈してはならないと言われました。発達の原動力は、子供のなかにある矛盾である。その矛盾を生き生きととらえられるような、しっかりした目(認識論、認識方法)を鍛えなければならない。」
 から始まって
 「目に見える変化をすべて価値のあるものと見てはならない。逆に発達退行や「問題行動」と見ら得る否定的なことの裏に価値ある力が育っていることもある。」
 「人間の発達はらせん階段を登るようなもので、一見否定的に見えることも将来のたいせつなステップかもしれない。」
 「結果をすぐに求めず、まわり道をいとわず、発達のらせん階段につきあう粘り強い人格になりなさいと言われました。」
 ここの下りが、何よりも心に響いた。
 らせん階段ですよ。後退しているようで、実は上がっている。そんな気持ちのゆとりが、子供たちにどれほど響くだろう。ものすごく大らかな考えだし、大人、特に親はそうあるべきだと思わせられた。この言葉を言った彼の恩師も、これに心を動かされ、本に書いた白石正久も、発達の本当の意味がわかっている人なのだろう。私は心を動かされたが、まだ実感としてなかなか伴わずにいる。もちろん言動も伴わない。つい心配したり、感情的に怒ったりしてしまう。こういう風になれたらなあと思っている段階だ。
 白石正久自身、この矛盾とは何かを理解できるようになるまで、長い時間が必要だったと語っている。今でも努力している最中だと。
 発達には、できない、そうはならない、ということが必ず伴う。しかし、そう思う時。その裏には、そうしたい、できるようになりたいという欲求があるのだ。その要求と、できない自分との矛盾との距離が大事なのだと考えである。
 子供がこうあってほしい、これができるようになってほしい、と願う時ほど、この言葉を自分の中で繰り返すようにしている。何よりも大事な考えだと、今の私はそう思っている。