では、こういうことを前提とするなら、じゃあ「悪い」母親って何だろう。暴力など感情的に力でもって相手を支配するなど、肉体的な面で虐待をするのは見るからに悪い親だ。「生まれてこなきゃ良かった」「いなきゃ良い」などという言葉で傷つけるのももってのほか。しかし、こういったあからさまな虐待もないのに、苦しんでいる人が多いのは何なんだろう。そういった人の親ってどんなのだろう。
 こういった本を読んでいて浮かび上がってくるのは、教育熱心な顔をしながら、実は自分の面目、評判、美意識を周囲に知らしめようとする親である。温かい家庭を「演じて」いるだけで、実は世間体が気になっている親だ。家庭内では依存関係が強く、親の強制、意識的或いは無意識的な支配の元に子供は動く。健気なことに、子供の方はそれに気づかず、一生懸命自分の役割を果たそうとする。そしてそれは、そこの家庭での秘密となる。子供に「良い」返事を期待し、本当は子供の方が「親がどう言えば喜んでくれるか」知っているからそう返事しているだけなのに、親はそこまで考えがたどりつかない。そういった親の本当の目的は、自分の思う理想の親子像を世間に見てもらうことなのだ。家庭内での雰囲気は?親子間の感情の通わせ方は?その子供の気持ちに沿ったものであろうか?
 以前も書いたことがある。理想の母親。
「赤ちゃんの頃から、泣いたらすぐたっぷりと抱っこしてやり、おんぶしながら家事をし、テレビは一切つけずに、クラシックなど聴かせながら、人に預けるなんてことはせず、玩具は極力与えず、与えるとしたら木でできた玩具。着ている物は、手作りの物やいただいたお古。できるだけ様々なイベントに顔を出し、たくさんの母親友達を作って子供同士を遊ばせ、たくさん砂や土で遊んで、体をたくさん動かして、元気一杯。食事も添加物をほとんど使わない食品を選び、毎日3食、必ず全てを手作り。そして子供が要求すれば、いつも機嫌良く色々演じながら遊ぶ。そのうち子供が好きなことがわかれば、2〜3習い事をさせる。幼稚園に通わせるようになったら、自分も働き始める。」
 その時も書いたが、そこに子供の意志はあるのか。「そこに子供の意志はあるのか」という言葉すら、今はものすごい重みとなって自分に問いかけてくる。そして、これがちっとも「理想的」なんかではないと思い知った。
 皆さんも心当たりの一つや二つはあるはずです。本当はこんな風に子育てしたいけど、子供がそうは従ってくれない。問題行動を始め、泣いたりぐずったり、怒ったりわめいたりして、全身で抵抗するから、世に言われている「良い子育て」とは反対のことをしてしまう。「○△な子にするには」こうしなくちゃいけないらしいのに、そうできない。あそこのお母さんは教育熱心な風に見えない……。あそこの子はぽや〜んとしていてしっかりしていない……。お母さんが、ちゃんとしていないんじゃない?しっかりしてよ、お母さんでしょ。ちゃんと子供のこと考えてやってるの?適当だわ。親が楽しそうでラクしちゃって、子供はどう思っているのかしら?
 でも、それで良いんですよ。良いんです。肩の力を抜いて、自然体で暮らしているお母さんが、結局は気持ちに余裕があって、子供の気持ちを受け止められるんですね。