A君のお父さんの転勤が決まった。突然のことだった。
 息子とA君は、幼稚園、年少さんの時からの大の仲良しだ。4月に入園し、風邪で二週間ほど休んだり、ゴールデンウィークがあったりで、ほとんど通えなかったにも関わらず、5月には帰宅後にA君の名前を出してきた。まだまだ3歳5ヶ月の息子だったので、何をしたとかだからどうしたとか、そういう話題ではないが、名札を読んで覚えたらしく、突然ウチの中でA君の名前を言った。
 翌日、偶然幼稚園へ息子を送った時に、靴箱でA君を見かけた。小さな弟を抱っこしたお母さんもいた。ちょこっと挨拶。A君は、なかなかやんちゃそうな男の子だった。そうか、息子よ、こんなA君とも遊べるんだ、もまれて気丈夫な子になっておくれ。……それが第一印象。
 やはり見た目と同じだと思ったのは、その運動神経だった。誰に何かを特別に習わなくても、息子がまだできないことがどんどんできていく。側転、垂直飛びのように高くジャンプすること、ロープで作ったジャングルジムのような物に登ること、走るのも大好きで速い。息子は無我夢中でついていっている。よく見失っては「母さん!A君どこ行った?」と必死の形相で聞いてくるものだった。そのうち鉄棒で前回り、自転車の補助ナシ(これはさすがに親に教えてもらわないとできないけど、でも年少の4歳半で乗れてしまったことには本当に驚いた)、綺麗なでんぐり返り。次々とできていくA君だが、できない我が息子を決してバカにしたり、自分と比べたり、必要以上に「こうするんだよ!」と教えたり誇示したりしない。そんなだからか、息子の方も「A君すごいねぇ〜。」なんて感心しちゃっているのだ。二人とも、相手がお互いのままでいて良い、という間柄がちゃんと出来上がっていた。幼い頃から、「お互いのありのままを認める」なんてなかなか良い友達じゃないの!と私は感心して見ていた。もちろん物の取り合いとか、ちょっとしたいさかいや言い合いくらいはあったようだけどね。その辺はA君も普段お兄ちゃんなだけあって、強かったし要領が良かった(笑)
 二人は、バス通園じゃない頃、幼稚園が終わるとよく園庭で遊んだ。一緒に遊んでいるという風には見えないが、男の子ってそういうものらしい。同じ場所で好き勝手にそれぞれのことをしていて、時々同じことをする。それで「一緒に遊んだ」と言うものらしいです。
 園内では、他の先生に笑われるほど、仲が良かったようで、手をつなぎ一緒に行動することも多かったようだ。私が偶然通りかかった時には、二人で、ブロックで作った電車らしきもので、真剣に遊んでいた。