夫と知り合ったのは、岡村靖幸の物真似をしてくれる親友とはまた別の、親友の紹介である。
 アメリカニュージャージーは、私の幼少期育った大切な場所。物心つき始めて、あらゆる感覚に目覚めた頃、暮らしていた所なので、私には「故郷」という感覚がついてまわる。すべての「感覚」の原点はニュージャージーにある。身に付けた集団での行動、考え方、文化、習慣、言語、歌、音楽。しかし、あれだけ使いこなしていた英語はほとんど忘れているし、アメリカの大好きな部分を知っていると共に、アメリカ人の嫌な部分も実感して知っている。なので、私にとって「故郷」という感覚はあるものの、言い切れる自信はないけどね。
 生まれた所は宝塚。ニュージャージー住んだ前後も宝塚だが、どうにも宝塚が故郷とも言いにくい。関西弁も後天的に身につけたものだし、帰国後イジメられたこともあって、強烈な愛着があるわけではない。気候もあまり好きではない。ただ、両親が住んでいる。これは重要だ。だから「実家は宝塚」と言う。

 まあそういうわけでだね、そういうニュージャージーで、将来の夫となる彼と知り合えたことは、私にとってものすごく幸運なことだったと言える。
 親友から紹介され、友達になるつもりも特になかった彼と、「あれっ。合うかも?!」と思った最初の話題が「音楽は何聴くの?」という彼の無難な会話だった。岡村靖幸の名前を出すと、男の人には引かれるので、一瞬ためらった。大学卒業する頃には、もういちいちそういう空気を作ってしまうことが面倒臭くなって、適当なミュージシャンや曲を挙げていた。しかし、別に好かれる必要もない相手だと思っていたし、そもそも私の原点とも言えるニュージャージーにいるんだから、自分をさらしてしまえ、とほんの少しの賭けのつもりで「岡村靖幸知ってる?」と言った。ああ空気悪くならなきゃいいなとほんの少し気にしながら。
 そしたら、彼は「えっ?!ホント?」と一瞬絶句。……あ〜あ。またこの反応だよ。まあ良いや、しょうがない。
と思った次の瞬間。
 「あの良さがわかるの?!」と言ってきた。「あの良さがわかる女の人って初めてだなあ〜。」と感心してくれているのだ。「なんですと〜?」と口には出さねど、相当な衝撃でした。そういう反応をした男の人も初めてでした〜。